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ドアを開けると、壁に追いやられている女の人に男の人が覆いかぶさっている。
女の人の両手はがっちりと掴まれていて、動ける状況ではないと、一目で分かった。
そして、女の人を掴んでいる男の人の左手には...指輪が。
動く度に照明でキラリと光る。
これがいわゆる、修羅場、的なやつ?
こんな時なのに、案外冷静に観察してしまう俺。
「...何?」
男の人が俺を見る。
「いえ、あの、声、聞こえたから...あの、彼女、嫌がってますよね?」
「は?何言ってんの?」
男の人が体を俺の方に向けた途端手の力を緩めたのか、女の人がパッと離れ、俺の後ろに駆け込んだ。
「別に嫌がってないし。恋人同士のじゃれ合いしてるだけじゃん。」
「いやいやそれならこちらに逃げて来ないでしょ?」
「うるさい。ほら、A、こっちおいで。」
なんて、言った?
A?
Aさん...?
俺は振り向いて、後ろに隠れている女の人を見る。
「A、さん...?」
ゆっくりと女の人が顔を上げる。
「え...岸くん...?」
泣きはらした目の、Aさんがいた。
「どうしたんですか、何やって、」
Aさんに話しかけようとすると、男の人が俺に掴みかかってきた。
慌てて両手で抑える。
「邪魔すんなよ。あっち行けよ。」
「無理ですって!こんなの、ほっとけないっすよ。落ち着きましょう?」
「お前には関係ないだろ?」
「いやいや、そういうことじゃない、」
「え?何なの、お前。Aのこと、知ってるわけ?え?もしかして、新しい男?」
「やめて!!」
突然、後ろからAさんの大きな声がする。
「違う!!関係ない!!関係ない人を、巻き込むのやめて!!」
"関係ない"
当然っちゃ、当然のこと。
でも、Aさんの声で聞くと、思いのほか衝撃が走る。
体の力が抜けていくのが、分かる。
「っ痛!!」
掴んでいた手も緩んだのだろう、男の人のパンチが顔にヒットし、俺はそのまま倒れ込む。
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作者名:Momanao | 作成日時:2019年9月8日 23時