歪め。【宇髄天元】

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「起立、礼」

「『おはようございます』」

「着席」

ばらばらと席につく生徒たち。
いつも通り、学校が始まる。なのに。

「今日って宇髄先生休みなのー？」

あの男がいない。

休みとか聞いてないけど？

『えーと、宇髄先生は…すいません、連絡来てないか確認してみますね』

教室を後にする。
うずてん誘拐事件だ！と生徒が騒ぐ。


結局連絡は無し。どうかと思うぞ社会人として。

『宇髄先生〜！』

教室をひとつひとつ確認する。
と、美術室の鍵が開いている。

ドアを開け放つと、


『あ』

いた。

朝日の光に包まれて、椅子に座ったまま眠っていた。
声は、かけられなかった。


しだれる銀の髪は、角度によって不思議な色彩をみせる。

陶器か石膏像か、滑らかな肌に長いまつげの影が落ちる。

体の力を落としきった無防備な姿にも関わらず
欠けるものひとつ無く綺麗で
言うなれば、窓から漏れ出る光の糸が紡いだ芸術だ。

それを壊す気にはなれず、ゆっくりと足を踏み出して近づく。


胸が高鳴っていた。

髪の隙間から覗く耳も、長い指も
ちょっとだけ開いた口も、ゆるく組んだ脚も

触れたくても触れられない。

ただ、目は離せない。

すると、そのその目がゆっくりと開いた。



『…わ』

全くの無意識で声が出た。

「んー…A。
どうしたんだよ、ぼーっとして」

『…』

声をかけられて、だんだん正気に戻ってきた。
私、何を考えてた…？

「なぁ、今何時？」

『え…っと、そ、そうだ、もう始まってますよ。生徒も待ってます』

私も要件をすっかり忘れていたのであまり強くは言えない。

「あー、手間かけたな。先行っててくれ」

ゆっくりと腰を浮かす宇髄先生。
その奥にキャンバスがあった。絵を描いてたのかな。

すると、後ろから目を塞がれる。

『わ』

「できてからのお楽しみな」

気にはなったけど、別にそれほど見たいと強くは思わなかった。
そういえば絵も上手かったなぁ、と薄ら思い出したくらい。



ーーーーーーーーーー

…あいつ、ぼーっとした顔してたけど、何だったんだ？
まぁいいか、疲れが出たのかもしれねぇな。

俺は早起きして絵描いてたから寝ちまっただけだが…

『ん？』

なんか落ちてんな。

『…あいつ』

こんな大事なもん落としてんじゃねえよ。

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