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手を繋ぐ - 1 ページ8

「あれ?A?」
「え?あ、優人さん!」

 スーパーの出入口で声をかけられたかと思えばばったりと出くわしたのはどうやら現在お出かけ中のはずである優人さんで何故ここにいるのだろうかと首を傾げる。その様子に優人さんが「ライン見なかった?」と苦笑いを浮かべた。

「あーっ……とね、スマホ家に置いてきちゃった。」
「携帯電話の意味ないじゃん。いや、まあ、あんま今は携帯電話って言わないけど。」
「近場だし、すぐ帰るからいいやと思って食費だけ握りしめて来ちゃったんだよね。優人さんも夜遅いって聞いてたし。」
「その予定なくなったから連絡したのに……。もう……。」

 重たい方貸して、と手を差し伸べる優人さんに遠慮することなく重たい方のレジ袋を渡してから一緒にスーパーを出て帰路に着く。話しながらもちゃっかりと車道側を歩いてくれる彼にニコニコしながら隣を歩いて、自分も慣れたもんだなあと感心する。昔は隣にいるだけでも動悸で死にそうだったのに、今ではそれが当たり前だと自信を持って言えるのだから人とは変わるものだ。

「何がそんなに嬉しいの?」
「え?」
「ニコニコしちゃって、えらい上機嫌じゃん?いいことでもあった?」
「うふふ、秘密。」

 彼と一緒にいて不機嫌になることの方が少ないのに分かりやすい顔をしていたらしい。いや、誰だってニコニコしていたらそう見えるものだろうか。まあ、その通りなんですけども!

「じゃあ、もっと機嫌よくなることしてあげる。」
「えー?なに?」
「袋を左手に持って右手あけて?」
「ん?……はい。したよ?」
「で、俺も持ち替えて……はい。」

 言われた通りにすればぎゅっと右手を握られて反射で優人さんの顔を見上げれば彼はニヤリと口元をゆがめて私を見下ろし、口には出さないものの「作戦成功」の4文字が表情から読み取れた。これは素直に悔しい。してやられた感が大いにある。

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作者名:笹森 糺 | 作成日時:2020年7月18日 18時

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