36 side Nissy ページ36
「楽しかったー」
珍しくテンションの高いAが繋いだ手をぶんぶんと振りながらニコニコと笑っているホテルへの帰り道。
西「うん、楽しかった」
「仕事、終わっちゃいましたね」
西「終わっちゃったねー」
「なんかね…」
急に立ち止まったAが、俺の手を強く握る。
西「ん?」
「私ね。
生きてて、よかった。
産まれてきて、よかった。
辛いこともたくさんあったけど…。
私が私として産まれてきたから今こうして、たかと一緒にいられるんだなぁって…、」
日本にはない色の街灯の灯に照らされたAはいつもとなんだか違って見える。街灯が消えたら闇にとけて消えてしまいそうな気がして、繋いだ手をきつく握り返した。
少しだけ驚いた顔をしたAが、俺の目を見る。
そして柔らかく微笑んだA。
「ただピアノと向き合う日々。
ただ過ぎていく、同じ毎日。
褒められたくて、笑ってほしくて、悲しくて、満たされなくて、心が泣いていた10代のほとんどの時間。
両親が亡くなってひとりになって、寂しさもあったけど、解放されたかのように感じながら、でも罪悪感もあったの。
それでも自分で選んだ道の先にたかがいてくれた」
違う場所で産まれて、違う時間を過ごした人同士が出逢うって、ほんと不思議だよねと付け加えたAがまっすぐにこちらを見つめて言う。
「ありがとう」
その言葉を聞いたら、目の奥が熱くなって鼻の奥がつんとして、頬に涙が流れた。
「…っ、やだ、たか?なんで?」
繋いでいない方の手を伸ばして涙を拭ってくれるのに、涙はあとからあとから流れて止まらない。
西「っ…ふ、なんでやろ?わかんないや」
悲しいとか苦しいとか、辛いとかじゃなくて。
ただ、心がぎゅっと掴まれた感覚。
「わっ…っ」
消えてしまわないように。
大切な、俺の宝物をなくさないように。
Aの体を引き寄せて抱きしめる。
西「俺の方こそ、ありがとう」
出逢えて、よかった。
Aがいなければ、ここまでこれなかった。
西「これからは、一緒に、生きていこうな」
「うん…、あともうひとつ、伝えたいことあったんだけど…」
西「なに?」
「今は…いいや。日本に帰る前にします」
西「なにそれ、気になる!」
「それよりもなんだか今ものすごく…」
腕の中で背伸びをしたAが、俺の耳元で恥ずかしそうに言う。
「たかに、抱かれたい。…だめ?」
382人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
(´・ω・`)(プロフ) - 大好きな人は。めちゃくちゃ素敵で何度も読み返してます!できたら、ショートのパスワード教えて欲しいです。 (10月29日 7時) (レス) id: e27e13d6a3 (このIDを非表示/違反報告)
ぽ - 大好きな人は。とてめ素敵なお話でした(^^)♡こちらの作品も1から全て読みたいです!パスワード教えて頂けると嬉しいです!! (2022年11月22日 1時) (レス) id: 7929bd4039 (このIDを非表示/違反報告)
eringi01030214(プロフ) - 先日読み終えたのでいまから見させて頂きたいと思ったらパスワードかかっていたので教えていただきたいです(;;) (2022年11月21日 3時) (レス) id: ea8392449b (このIDを非表示/違反報告)
りりり(プロフ) - 今から読ませて頂きます♪1から全て読みたいのでパスワード教えて頂きたいです!!! (2022年11月11日 9時) (レス) id: 6961cbc2a1 (このIDを非表示/違反報告)
eight888loooove(プロフ) - 大好きな人は。読ませて頂きました!ステキなお話で一気読みしてしまいました^ ^他の作品も読ませて頂きたいです!パスワード教えて頂きたいです。 (2022年11月5日 7時) (レス) id: 17095d27b5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:リリィ | 作成日時:2020年5月27日 7時