歩む道。7

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拓「お店のことはもういいから、
部屋でゆっくりこれ書いてきたら？」


と拓実さんが言ってくれたけど、


「いえ。夜ゆっくり書きます。


ずっと仕事もお休みさせてもらってたし、
仕事させてください。

でも、これ。
とりあえず部屋にしまってきます。」


急いで部屋に行き、また戻ってきた私。


Aちゃんは真面目だなぁ、
とかなさんに笑われて。


それがたぶんが数少ない取り柄です、
なんて私も笑いながら返す。


あたたかい人たちに囲まれて過ごせる
幸せを感じながら
私はまたお皿を拭き始めた。



そしてその夜。




テーブルの上に広げた婚姻届と、たかからの手紙。
傍らにあの万年筆。



よし、書こう



と思っても手が震えて
書けない。



人生でこんなに緊張することは
あんまりないんじゃないかと思う。




妻となる人




という文字を何度も指でなぞる。



私でいいのかなって気持ちは
きっとどのくらい時間があっても
無くならないだろう。



だけど。



たかが書いてくれた手紙を何度も読み返す。


夫婦じゃなくて、
家族になろうって言ってくれている愛情に
ちゃんと向き合って応えたい。




ふぅ、と息を吐いて
私はその紙に名前を書き入れた。



過去を乗り越えて、
西島Aになって生きていく未来を信じるんだ。



そして、
全て書き終わったあと。


私はたかに電話をかけた。



何コールか目で
たかの声が聞こえた。


「もしもし？」


西「ん。


あ…。もしかして届いた？」


「うん。」


西「そっか。」




短い言葉のやり取り。



「書くの、すっごい緊張した。」


西「俺も。

で、手紙書いてさ。
西島A、って書いたやん？

あれ見て、自分でものすごい照れた。」



なにそれ、と笑いながら、
目の端からぽろりと溢れる雫を
指で拭う。


たかの声を聞いたら、
嬉しさがまたこみ上げてくる。



「ありがとう。」



たくさんの気持ちを込めて
そう伝える。



西「どういたしまして、未来の奥さん。」



なんて言う電話越しの少し低い声に
ドキドキする。



西「あ、きっと今Aの顔真っ赤だな。」



とたかがクスクス笑う後ろから
にっしー、と呼ぶ声がする。



西「あ、呼ばれちゃった、ごめんな。
行かなきゃ。」


「うん。大丈夫。話せて嬉しかった。」


西「俺も。
じゃ、またな。」



切れた電話を抱きしめた私。



たかの言うとおり、
未来の奥さん、なんて言われて
私の顔は赤く染まっていた。

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