５太刀目:優しさに触れて♯ ページ7
Noside
もう何度目かもわからない、水樹との討論を終え…
香澄「…待たせたな、長義。腹が減っているだろう？すぐに用意するから…待っていろ。」
香澄は今日も調理台に向かう。
寮で共同生活をはじめてからは水樹も料理を振る舞うことが多くなったが…何だかんだで寮の部屋に備え付けられたキッチンで作業をする時間は香澄の方が長いし、その頻度も高い。
その所以は、香澄が料理を振る舞うということに何ものにも変えられない強い拘りを持っているというところにあるのだろう。
作業をする香澄の目は優しく、暖かく…何処か真剣であり…
長義「…。」
長義が目にしてきた、どうしようもない人間たちがしていた…どんな目とも違っていた。
故に、長義は気になった。
長義「…君は何故、そこまで俺に必死になる…？君の…大切な友人と揉めてまで、何故…。」
未だ出会って10日にも満たない、人間ですらない…得体の知れない者の為に必死になって…
その安全を守ろうとするのか。
その願いを叶えようとするのか。
この数日間…お世辞にも��良い奴��とは言えない態度をとり続けている自分にどうして…そんなに優しくできるのか。
長義の言葉に振り向き、真っ直ぐに自分だけを見る麗しい緑色の瞳が、その妙に落ち着いた眼差しが…
数日前、ここに降り立つきっかけになった自身の写し…『山姥切国広』のそれと重なって無性に胸の奥が熱くなっていく。
そんな感覚に支配されるのを感じながら…香澄の回答を待つ長義に香澄は…
香澄「あの夜、お前が俺の前に倒れていたからだ。」
香澄「目の前に人が倒れていたら、心配になるし…何か困ってるなら助けたいって思う。たとえ…それがその日はじめて会った他人だったとしても。」
香澄「俺が、その人にすることは変わらないよ。」
今まで、長義が出会ってきたどんな人間とも違う答えを紡いだ。
何時も長義に、香澄の友水樹に向ける…あの優しい微笑みを浮かべて。
それを見た瞬間…
長義の中で何かが弾けた。
長義「っ…本当に…君は、可笑しな人だ。」
そして…同時に溢れ出した。
香澄「おかしくなんてない。人間として当然のことをしているだけだ。」
今まで、長義の中にはないはずだった感情が。
否…
香澄「やっと、見せてくれたな…長義。」
香澄「…お前の心を。」
失っていたものと言うべきかもしれない。
漸く失ったものを取り戻した長義に…
それに優しく寄り添う香澄。
そんな2人の時間が流れていっているが故に…2人は気付かなかった。
長義の本体が美しく蘇っていっていることに。
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