『インモラル』

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駅ビルに入り、ブラブラと歩く。

はじめに本屋さんに入った。

色んな本屋さんの児童書売り場を見るのが好きな私は、児童書売り場をぐるりと回った。

ふと、妊娠出産コーナーに目がとまる。

不妊の本を手に取り、パラパラとめくっていると「北山さん？」と声をかけられた。

見ると、バインダーとペンを持った藤ヶ谷さんが「やっぱり。こんにちは」って微笑んで私に近寄ってきた。

不妊の本を慌てて後ろに隠すと藤ヶ谷さんは目をパチクリさせたけど、隠した本には触れてこなかった。

「ここの書店も担当してるんです」

気まずい雰囲気をかえるように藤ヶ谷さんが明るくそう言った。売り場を見て回っていたのかも。

「そうなんですか…」

早くどこかに行って欲しい。本を戻せないし。

「…じゃあ」

藤ヶ谷さんはふわりと微笑むと、児童書のほうへ消えていった。

すぐ本を売り場に返して本屋さんを出た。

見られたかな…。恥ずかしい。

エスカレーターで下の階に降りて、文具売り場へ入った。

仕事で使うボールペンを選んでいて、ふと顔を上げると驚いた顔をした藤ヶ谷さん。

えっ！また遭遇？！

さっきの態度はちょっと失礼だったし声をかけようと思ったら、藤ヶ谷さんは踵を返して文具売り場を出ていった。

何で？

なんか、なんか、やな感じ。

更に気持ちは沈んでいく。

ボールペンを購入して、大好きなコーヒー屋さんに入りカウンター席につこうとすると、また藤ヶ谷さんに会ってしまった。

藤ヶ谷さんは困ったような顔をした。

それが何だか面白くなくて、敢えて隣に座る。

「藤ヶ谷さん、なんかいやな感じですよ」

「え？」

じっと私を見つめる藤ヶ谷さんに体温が上がるのを感じた。

「さっき文具売り場で無視したり、今だって…」

「…違うんです、すみません」

藤ヶ谷さんはかるく頭を下げた。

この人、イケメンのくせに低姿勢。

「さっき書店で声をかけたら北山さんすごく嫌そうな顔をされたので、お休みの日は声をかけないほうがいいかなって思ったんです」

「えっ、あ…」

そうか、先に感じ悪いの私だった。

「ご、ごめんなさい…。私のが先に感じ悪くしたくせに、藤ヶ谷さんのそっけない態度が寂しいとか思ったりして」

「え…」

「違っ！寂しいっていうかあの、ムカついたっていうか！」

「え」

ぎゃあ！喋れば喋るほどおかしくなっていく。

「…ふは」

藤ヶ谷さんは顔をくしゃっとさせて笑った。

胸がキュッとなったことには気づかないふりをした。

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