『インモラル』

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「お邪魔しま〜す」

玄関に入る皐月さんに慌てて来客用スリッパを出した。

「え〜、すごい綺麗にしてますね」

皐月さんはジロジロと部屋中を見渡すから落ち着かない。

みっくんと藤ヶ谷さんと皐月さんにとりあえずお茶を出してから、買ったものを取り出してお皿に並べた。




「何この日本酒！甘くてワインみたいに美味しい」

「でしょ？これ結構女性に人気なんだよね、キツくなくて飲みやすいっしょ」

お酒好きな者同士で話が合うみたい。

二人はローテーブルのほうで飲んでいて、皐月さんはみっくんの太ももに手を乗せながら寄り添うように話してる。

皐月さんは甘え上手な人だと思った。

持ち上げるのも上手で、みっくんは嬉しそう。

藤ヶ谷さん、嫌な思いしてないかな…。

チラッとダイニングテーブルに腰を掛けている藤ヶ谷さんを見た。

藤ヶ谷さんはリビングに置いてあった私の読みかけの小説を読んでいる。

皐月さんはいつもお酒を飲みすぎてしまうらしく、心配だからって藤ヶ谷さんはお酒を断った。

作ったおつまみをテーブルに置いた後、藤ヶ谷さんの隣に座った。

「もう作り終わったの？早いね」

藤ヶ谷さんは小説を閉じて私を見た。

「はい、簡単なものばかりだから」

「…ごめんね、突然来て、色々させちゃって」

「大丈夫です。それに藤ヶ谷さんがまた家に来てくれて、嬉しい…」

最後の「嬉しい」は、恥ずかしくて声が小さくなった。

「ん？何？」

聞こえなかったのか、顔を近づけてくる藤ヶ谷さん。

近いっ…！

「いえ、別にっ…」

「俺がまた来たから嫌だった？」

「違います！」

「じゃあ何？聞こえるようにちゃんと言って？」

…わざとだ、この人。

「藤ヶ谷さんて、意外にいじめっ子ですよね」

「Aちゃんの反応がいちいち可愛いから、ついいじめたくなるんだよね」

またそういうことを言うっ！

「はは、リンゴみたいなほっぺたになってるよ」

「…私ばっかりあわあわってなって悔しい」

「あわあわって」

あはは、って藤ヶ谷さんが笑った。笑い声も、笑い方も、全部好き。ずっと見ていたい。

無言になって藤ヶ谷さんを見つめる私を、藤ヶ谷さんもじっと見つめ返した。

「A〜、ちょいこっち来て〜！」

みっくんが酔っぱらったような喋り方で私を呼んだ。

このくらいで酔っぱらったりしないのに、違和感。

「ここ、ここに来いって」

満面の笑顔で、あぐらをかく自分の足を叩くみっくん。

そこに行くの？！

「お前も飲めよ」

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