『インモラル』

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「なんか北山さん、感じかわりましたよね〜」

仕事の休憩時間、突然小野さんに言われた。

「そうかな？」

「はい、前は普通に髪の毛ひとつで纏めてただけなのに、今は編み込んだり色々アレンジしてますよね」

…だって藤ヶ谷さんがいつ来店するかわからないから、常に可愛くしておきたい。

あれから彼には会えてない。

連絡先くらい、交換しておけば良かった。

偶然にも会えないし、もちろん家にも来ない。

…藤ヶ谷さんは私に会えなくて平気なの？

私は会いたくて仕方ないのに。

あの日を思い出すと、身体が熱くなる。

またあの唇に奪われたい。



休憩から戻ると、高城出版さんから電話があったことを告げられた。

今日、藤ヶ谷さん来るんだ！

すごく嬉しい。

そわそわして、無駄に愛想のいい接客をしてしまう。

「こんにちは、高城出版です」

来た！

「藤ヶ谷さんっ、こんにちは！」

私より先に小野さんが挨拶した。

「こんにちは、小野さん。フェア、どうでした？」

「めっちゃ動きましたよ〜！」

「すごいですね」

楽しそうに話す二人。

面白くない。

「藤ヶ谷さん…」

「あ、北山さん。すみません、先に小野さんと実用書みてきますね」

「…はい」

北山さん、だって。

まあ、名前で呼んでたらおかしいけど。

仕事しながら実用書コーナーを盗み見ると、何やら盛り上がってる藤ヶ谷さんと小野さん。

10分ほどして、ようやくこちらに藤ヶ谷さんが来てくれた。

「北山さん、お待たせしました」

爽やかな営業スマイルの藤ヶ谷さんに胸がときめく。

「先に売り場を見させてもらいますね」

「あ、はい…」

早く話したい。

一通りチェックし終わった藤ヶ谷さんに次の商材についての説明を受ける。

ペンを持つ手を見つめて、この指に唇をなぞられたことを思い出して顔が赤くなる。

「…あのさ」

営業トークの明るい感じとは変わって、少し声をひそめて話す藤ヶ谷さんに嬉しくなった。

「は、はいっ」

「やりにくい」

「え」

「今は勤務中なんだから仕事に集中して。そんな目で見つめられると困る」

でも小野さんだって私みたいにうっとりと藤ヶ谷さんを見つめてたじゃない。

「すみません…」

盛り上がってるのは自分だけだと知り、恥ずかしくなる。

「我慢できなくなっちゃうから」

「え…」

あの日と同じ瞳で見つめられて、体温が一気に上がった。




他の人の目もあるから、その日は結局連絡先を聞けなかった。

藤ヶ谷さん、次はいつ会えますか？

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