『インモラル』

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一時間だけだよ、と念を押されてカラオケルームへ入った。

「ここなら安心してイチャイチャできますね」

「イチャイチャはしないから」

冷たく突き放されるのがなんだか心地よくなってきた。

ヤバイよね、私…。

「藤ヶ谷さん、何か歌って下さい」

「やだ。歌わないよ」

「…音痴なの？」

「違うよ」

「じゃあ、歌ってる姿がかっこよすぎて更に惚れられたら困るから？」

「それも違う。…歌うんじゃなくて、ちゃんとAちゃんと話がしたいから」

私のほうに身体を向けて、真剣な顔でそう言う藤ヶ谷さん。

そんなに私と話がしたかったんだ。

「嬉しいですっ！」

抱きついたら「ちょっと意味履き違えてると思うよ」って引き剥がされた。

「イマイチ理解できないから、だから話したい。北山のことが好きで結婚したんだよね？」

「はい…」

「ならなんで俺にちょっかいかけてくるの？」

「藤ヶ谷さんが、好きだから…」

「北山の奥さんでしょ？」

「そうだけど、でも」

「うん」

親身に私の話を聞いてくれる藤ヶ谷さん。

ほんとに私、何してるんだろう。

浮気なんて、不倫なんて最低だって思うのに。

「…触りたいんです」

「え？」

「藤ヶ谷さんの心に…身体に」

「何言って、」

不意をついて、藤ヶ谷さんの唇に自分の唇を押しあてた。

けど一瞬で離されてしまう。

身体が沸騰しそうなくらい、熱い。

自分からキスしたことなんてなかった。

なのに藤ヶ谷さんには自分からしたくてたまらない。

「もう一回…」

再度顔を近づけようとすると、藤ヶ谷さんの手のひらで口を塞がれた。

「ダメだって、Aちゃん…」

そう言いながらも、藤ヶ谷さんの瞳には少し熱が籠っているのがわかって嬉しくなった。

藤ヶ谷さんの手を両手で包んで、手のひらにキスをした。

「…もっかいキスしたら、ちゃんと帰るから」

藤ヶ谷さんは私に言われて仕方なく、だよ。
それなら罪悪感もないでしょ？

震える手で、藤ヶ谷さんの手のひらを自分の火照った頬に添えた。

「だからお願い、キスして…」

恥ずかしくて怖くて泣きそう。

視界がぼやける。

この人が、欲しい。

他には何も要らないから。

藤ヶ谷さんの手が私の後頭部に回り、もう一方の手で腰をグッと引き寄せられた。

藤ヶ谷さんの息がかかる。

私は目を閉じた。

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