『インモラル』

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こんな街中でこんなことをして、誰かに見られたら…。

そう思ったら怖くなって、藤ヶ谷さんの手を振り払って立ち上がった。

藤ヶ谷さんも静かに立ち上がる。

「じゃあ、帰ります…」

「待って。送ってくから」

「いいです。一人で帰れるし」

「ちゃんと家に帰る？」

何それ。子どもじゃないんだけど。

…あ、そうか。さっき適当に遊び相手探すって言ったからかな。

「藤ヶ谷さんが相手してくれるなら、その後はまっすぐ帰ります」

「…Aちゃん、俺の言うことは何にも聞かないね。北山にはあんなに従順なのに」

ほんとだ。

みっくんには言われた通りにできるのに、藤ヶ谷さんにはワガママ言いたい放題だ、私。

「甘えてるんです、藤ヶ谷さんなら受け止めてくれそうだから」

「もて遊ばれてる気しかしないけどね」

「少しでいいから、二人きりでお話したいです」

私がそう言うと藤ヶ谷さんは顔を歪めた。

「何もしないから…」

「それ普通男が言う言葉だよね」

「カラオケとかどうですか？」

可愛い子ぶって首を傾げてみた。

「行かないよ」

「じゃあその辺の適当な男性捕まえて行ってきます」

「そんなことできるような子じゃないでしょ」

今度は動じない藤ヶ谷さん。

私は歩き出すと、仕事終わりのようなサラリーマンのおじさんに声をかけた。

「あの、もし良かったら一緒にカラオケ行きませんか？歌いたい気分なんですけど、一人で入るの恥ずかしくて…」

「え、あ」

いきなり声をかけられて戸惑うおじさん。

「振られたばかりで寂しいんです…」

「あ、じゃあ…」

そこでいきなり手を引っ張られた。

良かった。やっぱり来てくれた。

「振ってないから。行こう」

そのまま手を繋いで歩く。

知らない人にあんなに大胆なことをしたのは初めて。

それに、そもそもこんなに一人の男性に執着したことなんてない。

「…藤ヶ谷さんといると、おかしくなりそう」

「それはこっちのセリフ」

繋いだ手をぎゅっと握る藤ヶ谷さん。

手のひらが、熱い。

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