『インモラル』

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キャラメルラテがテーブルに届いて、口をつける藤ヶ谷さんをじっと見つめた。

「…そんなにじっと見られると飲みにくいよ」

カップを置いて私を嫌そうに見る藤ヶ谷さん。

「いいなぁ、私、カップになりたいです」

「どうしたの、今度は」

白けた顔で聞いてくる。

「だってカップになったら藤ヶ谷さんに口づけしてもらえるし」

顔をひきつらせる藤ヶ谷さん。表情豊かで面白い。

「藤ヶ谷さん、どうして家に来てくれないんですか」

不満げに聞くと、藤ヶ谷さんは満面の笑みで「変な子がいるからだよ」って答えた。

ひどい。けど確かに。

「あの、もし私と結婚してたら、藤ヶ谷さんは私のこと何て呼んでくれました？」

「ん〜、普通にA、かなぁ」

呼び捨て！萌える！

「じゃあ、プロポーズの言葉はっ？」

「君みたいな変な子と一緒にいれるのは俺だけだよ、だな」

「…何それ」

「はは」

「もっとキュンってするのが聞きたい！」

「やだよ、本気にされたら怖いし」

藤ヶ谷さんの私の扱いがどんどんひどくなっていく…。

「…料理、まずかったですか？」

「どうして？」

「何となく…」

私がシュンとなり下を向くと、藤ヶ谷さんは私の顔を覗きこんでフッと笑った。

「おいしかったよ。北山が羨ましいって思った」

「ほんとに？」

「うん。Aちゃんの数少ない取り柄だね」

楽しそうに私を傷つける藤ヶ谷さん。意外にいじめっ子気質なのかも。

「…数少ないって、後は？」

「後？う〜ん、北山の言うことを健気に聞いてるとこ？」

「後は？」

「いつも笑顔なとこ、かな」

「笑顔が可愛い？」

「うん、可愛い」

えっ！

思いがけない言葉に顔が真っ赤になる。

「…可愛いとは思う、Aちゃんのことは」

でも、と藤ヶ谷さんは真面目な顔をした。

「奥さんを裏切る気は、ない」

「…」

「遊び相手なら他を当たって欲しい。俺、つまんない男だし」

何それ。

誰でもいいわけじゃないのに。

遊び相手探してるわけじゃないのに。

「…じゃあ適当に今から見つけてきますね」

「え？」

「失礼します」

走ってお店を出た。

もちろん、そんな気は更々ない。

自分の計算高さにゾッとした。

立ち止まって、振り返る。

…やっぱり。

藤ヶ谷さんが走って追いかけてきてくれた。

こんな女ほっとけばいいのに。

藤ヶ谷さんってほんと…。

「…ごめん、言い過ぎた」

「藤ヶ谷さん、好き…」

しゃがみこんでしまう私を、藤ヶ谷さんは遠慮がちに包み込んだ。

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