『インモラル』

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「北山さんって面白い方ですね」

「なんか色々ほんとに申し訳ないです…」

「…このコーナー、北山さんが作ったんですか？」

子ども向けの小さい椅子や机がある絵本スペースを指差す藤ヶ谷さん。

「はい…絵本にゆっくり触れて欲しくて」

「いいですね」

そのコーナーで絵本を読んでいる親子を優しい眼差しで見つめる藤ヶ谷さん。

「子ども、好きなんですか？」

私の質問に微笑み、頷く藤ヶ谷さん。

「僕、前は幼稚園の先生になりたかったんです」

「へぇ〜」

こんなかっこいい先生がいたら、ママ達が群がりそう。

「けど教育大の幼児教育科って女性ばっかかなって思ってやめました」

「女性、苦手なんですか？」

得意そうだけど。

「集団とかはちょっと苦手かな、って」

それすごくわかる。

「だからつい実用書より児童書のほうに力いれちゃうんですよね」

苦笑いする藤ヶ谷さんが、可愛らしくて胸がキュンとした。

藤ヶ谷さんは、話すときちゃんと相手の目を見て話すから、じっと見つめられると胸が高鳴る。

そんな気持ちを隠すようにひたすら微笑む私。

「実用書の方も見てきますね」

藤ヶ谷さんは軽く頭を下げると行ってしまった。

高城出版さんの本は実用書もあるから、今度は実用書担当の小野さんとお話してる。

横顔、綺麗。

藤ヶ谷さんかぁ。

あんな素敵な人が新しい担当さんだなんて嬉しいな。

目の保養にするだけ。

私なんか相手にされるわけないし。

でも久々にときめいて、なんだかくすぐったい気持ちになった。






「ただいま〜」

「みっくん、おかえりっ」

鞄と上着を受け取り、みっくんの後ろをついていく。

「…なんか今日の夕飯、手の込んだのが多くないか？」

どきっ。

だってなんかご機嫌になってしまって、ついつい作りすぎちゃった。

「休みだったし、たまにはね」

「ふうん」

まさか自分以外の男性にときめいたなんて思いもしないんだろうな、みっくんは。

「ふふっ」

「…なんかご機嫌じゃん」

「気になる？」

「別に〜。いつも難しい顔してるから、それよりはいいんじゃねぇの？」

何それっ。

けどみっくんのいつものカチンとくる言葉も今日は私には届かない。

ちょっとした楽しみができた私は、なんだか心が広くなった気がする。

怪訝な顔をするみっくんを無視して、冷蔵庫に冷えたグラスを取りに行った。

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