『インモラル』

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太田さんが降りた途端、静かになる車内。

何にも喋らない藤ヶ谷さん。

きっと最低限の会話しかしたくないんだろうな。

でも今は藤ヶ谷さんの家の場所を聞かないと送れないから、一度路肩に車を停めた。

「ふ、藤ヶ谷さん…」

緊張からか、声が上擦ってしまった。

「ん？」

意外にも優しい声色に安心した。

「あの、お家どこですか？」

「え？」

「場所がわからないと送れないから…」

私には場所は教えたくないかもだけど。

「ああ、Aちゃんちに戻ってくれればいいよ。歩いて帰るから」

Aちゃん呼びに嬉しくなった。もう呼んでくれないと思ってたから。

「え、でも」

「車に乗ったのは、Aちゃんが心配だったから。太田送って自宅着いたのを見届けれれば安心だし」

…この人は何なの？

優しくするにも度が過ぎてる。

「…そんなに私のこと心配ですか？」

「危なっかしいからね」

苦笑いする藤ヶ谷さん。

「別に平気です」

可愛くない私。どうして藤ヶ谷さんにはみっくんにするみたいに従順でいられないんだろう。

それどころか怒らせたいと思ってしまう。

「心配しすぎです」

「…わかってないよ、男のこと。酔っ払いと車内で二人なんて危ないって」

「大丈夫です。いざとなったら車降りて逃げるから」

私の言葉に静かになる藤ヶ谷さんが気になって横を見ると、怒った顔をしてる藤ヶ谷さん。

「…なら逃げてみてよ」

藤ヶ谷さんは自分のシートベルトを外すと私のシートを倒した。

慌てて起き上がろうとしても、藤ヶ谷さんに両手首を押さえられてて逃げられない。

「ほら、逃げられないでしょ？」

息がかかるくらいの至近距離。

少し顔を起こせば唇がぶつかりそう。

…駄目だって。

必死に理性を取り戻そうと首を振ったら、否定してると思われたのか「わからず屋だな」って呆れた顔をして離れる藤ヶ谷さん。

「こっちは真剣に心配してあげてるのに」

「…大きなお世話です」

シートを起こして藤ヶ谷さんを見つめると「前から思ってたんだけどさ」ってしかめっ面で藤ヶ谷さんが言った。

また文句？

「何ですか」

「そんな目で見つめられると男は勘違いするからやめたほうがいいよ」

藤ヶ谷さんはわかってない。私が熱のこもった目で見つめるのは藤ヶ谷さんだからなのに。

私は藤ヶ谷さんの手を取り自分の熱い頬に充てた。

「勘違いじゃないです」

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