『インモラル』

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新刊やハロウィンの絵本のお薦めを聞き、補充と共に注文した。

注文書に番線を押して渡すときに手が少し触れて、指がジンとした。

「では、失礼します」

結局一度も微笑まないまま、藤ヶ谷さんは帰って行った。

「なんかクールな感じの営業さんですね」

どこからか、ぬっと現れた玉森くん。

「あんなんで仕事取れるのかなぁ。営業はやっぱり笑顔が大事でしょ」

頬に人差し指をあてて微笑む玉森くん。

「イケメンだからヘラヘラしなくても取れるんじゃない？」

今井さんがらしくないことを言ったから吹き出してしまう。

「でも私に挨拶した時はニコニコしてたけどね」

今井さんの言葉にショックを受けた。

「北山さん、嫌われてたりして〜」

玉森くんが余計な一言を言うからジロリと睨むけど、玉森くんは不敵に笑った。

大学生にすら、なめられてる私って…。




仕事が終わり、買い物をして帰り、玄関の鍵を開けようとすると、隣から赤ちゃんのすごい泣き声が聞こえてきた。

ちぃちゃん、どうしたんだろう。

自宅に入り、買ったものを冷蔵庫にしまって、洗濯物を取り込みにベランダに出ると、空気を引き裂くような泣き声。

もしかしてちぃちゃん、具合悪いのかな。

いつも聞くような泣き声じゃないから心配になって、一美さんの家のインターホンを鳴らした。

玄関のドアを開けた一美さんは目が真っ赤で、髪の毛も珍しく乱れていたから、更に心配になった。

「あの、大丈夫ですか？ちぃちゃん…」

一美さんは確か運転ができないって言ってたから、病院へ行くなら車で送っていこうかと思って提案しようとしたら、「どういう意味ですか」って低い声で言われて驚く。

「え…？」

「まさか、虐待でもしてるなんて思ってるんですか？！」

何でよ。意味がわからない。

「私はただ、ちぃちゃんの泣き声がいつもと違うから心配で…」

「子どもがいないあなたに何がわかるのよ！帰って！」

ドアを閉められてしまった。

私はほんとに一美さんの言う通りで、何もわかってなかった。

この日のことは後に自分が母になった時に、ものすごく後悔した。

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