『インモラル』

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「北山の奥さんだなんて、びっくりしたよ」

テーブルに料理を並べてると、藤ヶ谷さんがみっくんにそう言った。

「こっちのがびっくりだわ。まさか二人がすでに知り合いだったなんてな」

みっくんは藤ヶ谷さんのグラスにビールを注ぎながら笑った。

「で？コイツちゃんと仕事出来てんの？」

「できてるもん…」

みっくんはお友達の前だといつもよりもバカにしてくる。普段は平気だけど、藤ヶ谷さんには聞かれたくない。

「ミスばっかして叱られてんだろ、どうせ」

みっくんが私の頭をわしゃわしゃとするから、髪の毛がグシャグシャになった。

藤ヶ谷さんがお店に来た時、私今井さんに怒られてたもんね。きっと言っちゃうんだろうな。

エプロンをギュッと握りしめて藤ヶ谷さんの返答を待った。

「そんなことないよ。先輩みたいな人に仕事出来るって言われてたし、売り場も自分で色々考えてるみたいだし、俺からしたらすごく仕事頑張ってるんだなって思ったけど」

藤ヶ谷さんの意外な言葉に胸が締め付けられた。

ていうか、「俺」だって。私といる時は「僕」だったのに。

藤ヶ谷さんのプライベートな一面を少しだけ見れた気がして嬉しくなる。

「にやけてんじゃねぇよ」

「いたっ！」

みっくんにお尻を叩かれた。

もうっ！ほんと最低っ！

「…北山、変わんないね」

藤ヶ谷さんが苦笑いをした。

「何が」

「昔から、好きな子だけには当たりがキツかったでしょ。好きな子しかいじめないからわかりやすかったよ」

「はぁっ？！」

藤ヶ谷さんがクスクス笑うとみっくんは顔を少し赤くして怒った。

そうなんだ。昔からなんだ。

「…藤ヶ谷さんは？」

「ん？」

「藤ヶ谷さんは好きな子にはどんな態度をとってました？」

気になる。

「あぁ、僕はね…」

「お前の話なんかどーでもいいわ。A、ビールおかわり」

「…はい」

聞きたかったのに。みっくんのバカ。

「藤ヶ谷の奥さん、一個下だっけ？今度連れてこいよ。見たいし」

えっ！

「あぁ、また聞いとく」

藤ヶ谷さんの奥さん、どんな人なんだろう。

「これからは家族ぐるみで付き合っていきたいな」

みっくんの言葉に「うんっ！」て思わず返事をしてしまう私。

「お前には言ってねぇよ」

「あはは」

藤ヶ谷さんの笑顔がすごく好き。
笑ってくれると嬉しい。

笑顔に見とれてるとみっくんが睨んできたから、慌てて台所へ向かった。

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