溺愛ロジック F side

人形のような君 ページ14

「ね〜、藤ヶ谷先生〜」

二階堂だ。

上履きの踵を潰して歩いているからペタペタとまるで幼稚園児のような足音に苦笑した。

「どうした」

「ね〜、俺もう北センが担任なんてやだ」

「そんなこと言うなよ」

軽いスキンシップとして小突くと膨れっ面になる二階堂。「上履ききちんと履かないと転ぶぞ」とやんわり嗜めると、言う通り素直に履き直す二階堂。

「もう教師なんて信用できない」

二階堂の言葉に呆れる。当たり前だろ。教師どころか周りの人間すべて信用しないほうが身のためだ。

「俺でよければ聞くよ」

「学校じゃ話せないじゃん」

「学校じゃなきゃ会えないだろ」

「先生んち行きたい」

…また始まった。

二階堂に限らず生徒達によく家に来たいと言われるけど冗談じゃない。

「可愛い教え子を招きたいのはやまやまなんだけど、問題になっちゃうんだよ(笑)」

「なんだよ、ケチだな〜」

「…北山先生は生徒思いのいい先生だよ」

差し障りのないことを言って追い払った。

もちろん二階堂は全くスッキリしなかったみたいだし、それこそが俺の狙いだった。

今はまだ北山と和解されては困る。


そしてAの発表会の日。

ドレスを着たAは今すぐ抱いてしまいたいほど美しかった。ここまで肩が露出したデザインはAの好みではなさそうから、母親だろうか。

こんな綺麗な娘がいたら自慢したい気持ちになるんだろうけれど、俺だったら逆に誰の目にも触れないところへ閉じ込めてしまいたい。

着せかえ人形のようなA。彼女の人生は母親によって操られている。そしてそのことを母子ともに気づいていない。

Aの演奏を初めて聴いた。

幻想即興曲は、梨華が演奏したのを聴いた時は激しい曲だという印象だったのに、Aの音色はとても綺麗だった。

中間部分の演奏はもちろん最後の激情ともとれる場面すら美しく奏でるA。

Aの演奏を聴き終えた後、俺は敢えて玉森と二人にしてやった。

Aと仲良くしていられるのも今のうちだよ、玉森。

幸せの絶頂から突き落とされるほうがダメージは大きいはずだ。



その日の夜、Aに電話して月曜日の放課後に会う約束をとりつけた。

玉森が失意のどん底に堕ちるまでもう少し。

翌日の日曜日、俺は玉森に間接的に伝えていた建築士の模型展覧会へと足を運んだ。

建築士になりたいと玉森は以前言っていた。きっと来るはずだ。

…いた。

怖いくらい思い通りの展開。

「玉森」

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