心配性 ページ33
＜東谷目線＞
土方の拠点に来てから数日経ったある日、永倉が尾形と、私、牛山を集めて新しい指示を出してきた。
夕張に刺青人皮がある、と言うらしい。それと、そこで‘白石’と言う人物に会えば利用せよ、とのこと。本当にどこから情報を入手しているのか聞きたい。
拠点を発つのは二日後だ。それまでは自由時間らしい。牛山は裏山で背負い投げの練習を、尾形は勇作が依り代にしている銃を取り出して手入れをしている。私は特にやることがないので尾形の手入れを眺めている。
｢…｣
｢……｣
｢………なんか用か？｣
こちらに目を向けずに訪ねてくる。
特に用は無いので、無視する。尾形はそれを気にも止めず丁寧に手入れを続ける。
｢兄様！今からでも遅くありません。軍へお戻りなって下さい！！｣
｢どうして脱走兵になったんですか…｣
突然、第三者の声が響く。響くと言っても尾形と私にしか聞こえない声であるが…。
｢……はぁ、勇作殿。｣
｢脱走したのは俺なりの理由と意思があります。勇作殿が何と言おうと、戻る気はありませんよ｣
｢どうして……っ、Aさんも何か言ってくれませんか？｣
｢何も言うことはないわ。私には他人の意思について何か言う権利がないもの｣
そう、一度決めた事への口出しは無用だ。迷いを生み出すだけであるから。尾形も、何かしらの信念や思いがあったから脱走兵として自由になったんだ、と私は思う。
｢兄様！俺は兄様が心配なのですっ！｣
｢心配される程弱くはないです｣
端から見れば、私と尾形しか居ないので、噛み合ってない会話と言う印象しか受けないだろう。
まぁ、その心配する気持ちも分からなくはない。誰だって家族が危険な目に合いそうなのを放ってはおけないだろう？だから、私は尾形も勇作も止めない。ただ、眺めているだけだ。
それにしても、勇作は相変わらず元気だ。銃を依り代にしているから、ある程度弱体化した筈なのだが、そう言った様子は全く見えない。まぁ、元気なのは良い事の筈。生きてる人間に限るかもだが。
｢はっ、待てよ…良く考えてみるとこの状況は、兄様が俺の体(依り代)を触っていると言う訳で、脱走云々の前にこの感覚を堪能した方が良いのでは…｣
｢兄様！どうぞ勇作めを手入れしてください！｣
｢……｣
尾形よ、面倒くさそうに私を見るな。お前を助ける為に銃を依り代にしたんだ。許して欲しい。
それでも手入れをする辺り、私情より銃をとった、と理解出来た。ごめんね、尾形上等兵殿。
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作者名：文揚げ | 作成日時：2021年10月4日 17時
