マタギと双子と山猫と[伍] ページ24
谷垣にとって、強敵となるのは尾形ただ一人。二階堂は、同じ階級の者として危惧と言うには少し違う。東谷は未知数だが、女である事、そして丸腰だったのが理由で、あまり危険視はしていない。
対して尾形はこの状況を狩りに見立て行動し、二階堂はそれに同行、東谷は散歩程度の感覚だ。散歩と言うには険しい道のりであるが、そこは触れない。
｢足跡が途絶えました。本当に手負いか？あの野郎｣
｢谷垣はマタギだ。山での動きに慣れている｣
｢だが、この雪が残る山で、手負いの状態だ。常に此方が有利だ｣
尾形が冷静に物事を見る中、東谷は一人思いに耽っている。マタギと言えば阿仁マタギ。全国を旅する東谷にとっても、中々に興味深い場所だった。
立ち寄った村で、過去に火事があったらしい。家に居た人間は夫婦で、女性が死亡し、男性は行方不明。その義弟が軍人になったと言う。
もしかして？と思うところがあるが、別にどうって事も無い。東谷は思考の奥底にそれを押さえ、現在の状況を確認する。
｢じきに日が暮れる。今夜は野営だ｣
｢……嘘でしょう？｣
｢嘘を言って何の得があると言うんだ｣
まだ冬だぞ、と言いたげな東谷を無視し、尾形と二階堂は野営の準備に移る。準備と言っても特別何かする訳でも無く、少し平地になったところを探して、地面を慣らす程度だ。当然、火なんて焚けば居場所を教えるも当然の行為なので、全員仕方無く体を小さくする。一度二階堂がそれで注意らしきものがされたのだ。
｢……今思ったのだけど、これ三人で丸まって暖を取れば多少なれどマシになるんじゃない？｣
｢男同士でくっつけと？｣
｢私が間に入るから｣
｢それより火を焚きましょうよ｣
｢｢居場所を教えるようなもの｣｣
｢畜生…！｣
他愛も無い会話とやらが、これからいつまで続くのだろうか？もしも、これが平和な世だったら…と思っても、それなら先ず山で野営なんてしないから、考えても意味の無い事だ。
結局その夜は三人で三角形の頂点に各々位置するかのように居座り、朝まで待った。寝ると死ぬぞ！とかそんな言葉が脳内に響いた二階堂と東谷が居たのは内緒だ。
＜東谷目線＞
｢あそこに狼煙が………猟師ですかね｣
｢近付いて確認する｣
次の朝、動きがあった。
狼煙か……私も猟師だと思うが、用心深い尾形上等兵は百メートル弱程離れた茂みから、二階堂に指示をして様子を伺う。
……猟師でなければ、何故谷垣は居場所を知られるような行為をしたのだろうか？
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 34人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：文揚げ | 作成日時：2021年10月4日 17時
