マタギと双子と山猫と［弐］ ページ21
＜東谷目線＞
｢尾形上等兵殿、こちらの女は誰ですか？｣
｢貴様に答える義理は無いぞ｣
｢恩返ししたければ、すれば良い。見なかった事にしてやる……行くぞ二階堂、東谷｣
私の事に触れたが、尾形上等兵はそれを一蹴りし、そそくさとこの小屋から出ようとする。
二階堂はフチ(祖母)の肩から手を放し、私は立ち上がって尾形上等兵についていく。
去り際、尾形上等兵は谷垣一等卒とすれ違う瞬間
｢ところで、‘不死身の杉本’を見なかったか？｣
｢アイツに出会って、一番近いアイヌの村が……此処だ｣
その光が一片も無い黒くて大きな瞳孔が谷垣一等卒を射る。
｢…いいえ｣
その答えにフッ、と笑い『そうか』と告げると今度こそ立ち去る。私と二階堂一等卒も立ち去ろうとするが、谷垣一等卒から睨まれた気がしたので
｢私は敵対意識なんて欠片も無いわ｣
｢貴方が何もしてこなければ、ね？｣
それだけ言うとこの小屋から、この村から離れた。
＜谷垣目線＞
｢もう…此処には居られない……っ！！｣
俺は第七師団から抜ける予定だ。だが、尾形上等兵に見つかり、見なかった事にしてくれると言うが、少なくとも此処には居られなくなった。
それをおばあちゃんに伝えようとしても、アイヌと和人の文化圏の違いだ。言葉が伝わらなかった。
近くに居たオソマ(女の子で、病魔を寄せ付けない為にアイヌ語で汚い名前にする風習があるらしく、オソマとはう◯こ)に翻訳を頼もうとするが、してくれない。無理矢理こちらを向かせると、その目には涙が流れていた。
おばあちゃんから、声をかけられた。何を言っているかわからないけど、心は通じる。……俺を、心配して、不安にさせてしまったんだ。
気付けば俺も涙を流していて、オソマに耳を掴まれて後ろに引かれた。
瞬間、俺の額には銃弾が掠り、血が吹き出す。
あまりにも突然。咄嗟に身を屈め、おばあちゃんとオソマにも屈むように叫ぶ。
｢伏せていろオソマッ！！｣
｢絶対に動くなよ！？｣
尾形上等兵ェ……！！俺は歯を砕く勢いで食い縛りながら窓口から外を見る。一面雪景色で、あの射撃の達人だ。此処からでは見えないだろう。
俺を狙う理由はきっと‘アレ’しかない。前、玉井伍長に言われた
『屯田兵は寄せ集めの集団だ。根っこは脆いのかもしれない』
『鶴見中尉の思想についていかない者も居る』
『お前は、どちらに付く？』
あれは、尾形上等兵の事だったのか！
もう、彼等は第七師団でも何者でもない。
──────俺の敵だ
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作者名：文揚げ | 作成日時：2021年10月4日 17時
