霊媒師も楽じゃない ページ16
＜東谷目線＞
鯉登少尉の事だ。きっと霊の集合体に気付いているだろう。
こんな事なら賃金くらい請求すれば良かった。宇佐美を連れ、私は再度走り出す。
「キエェェェェェェェェ！！！！！」
なんだこの雄叫び(？)
独特な叫び声はまだ少し遠い場所から聞こえる。
「薩摩に伝わる示硯流の猿叫ってヤツだ。」
「十中八九鯉登少尉だね」
成る程、要らない知識がまた一つ増えた。でも、目印のようだから今は助かる。
猿叫がする方向に向かうが、流石は少尉と言う階級を貰う軍人。たかが一介の霊媒師が追い付ける速度じゃない。
ふと、足が空を蹴る感覚に切り替わった。
「東谷、遅いよ」
そう言いながら私を荷物のように抱え、走り出す宇佐美が居た。いや、確かに何も言えないのだが、持ち方どうにかならないのか？宇佐美からすれば米俵を脇に抱えている感じだが、私からすれば腹に腕を回されているのだぞ。くすぐったいし、他者からの視線が痛い。
尾形上等兵の気持ちを(強制的に)理解した瞬間であった。
「ッ、居たァッ！！！」
「そのまま突っ込みなさいッ！」
「いや、投げッ！飛ばすッ！！！」
は？いや、少し待って欲しい。コイツ今何て言った。
投げ飛ばす…ナゲトバス……。
「やっ、やめろォォォォ！？まだ心の準備がッ」
「舌噛むぞっ、黙れ！！！」
拒否権もないのか！？
有言実行とは正にこの事で、私は宇佐美に投げ飛ばされ、鯉登少尉達を追い掛けていた霊の集合体に向かって右手の人差し指と中指を伸ばし、他は曲げる。ジャンケンのチョキの指をくっ付けた感じだ。手の形を固め、集合体に着突き刺すように触れれば、念を込め
「鎮ッ！！！」
と言を放つ。
本来なら勇作の感情が高ぶった際に使う予定だったが、これは霊の高ぶった感情を強制的に鎮める方法だ。主に低位から中位程の怨霊等に使用される。
因みに人間に使用すると、男なら萎え、女なら無気力になるらしい。使う機会はきっとない。
「…ｷｴｯ、A？」
「……鯉登少尉殿、取り敢えず尾形上等兵を離してあげて」
良く見れば此処は行き止まりで、袋小路だった。恐怖からなのか尾形上等兵に抱き付き、半ば涙目の鯉登少尉は我に帰ると尾形上等兵を離す。
対して尾形上等兵は霊圧もあってか頭痛がしていたらしい。今はないようだ。それよりも羞恥心が勝った様子だ。片手で額から顔を覆うようにさて顔を隠していた。
「A、説明してくれるよな？」
鯉登少尉は、私を睨んでいた。
これは面倒臭そうだ
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作者名：文揚げ | 作成日時：2021年10月4日 17時
