これは貴方じゃない[弐] ページ13
＜東谷目線＞
「ああああああアアあああ！！！？」
尾形上等兵の声だ。何故叫んでいるんだ？
考える前に、声のする方向へ急ごう。何だか嫌な予感と言うものがする。
私は声の方向へ行く。途中、障害物とは言えないが、邪魔になるボロボロの木片や何かで壊された、硝子(ガラス)の破片があった。歩くのに一苦労だ！
「尾形上等兵殿っ！」
息堪え堪えな私は、何処か足取りが覚束無い尾形上等兵の後ろ姿を見て、大きな声で呼ぶ。彼は振り向く。その顔は、何かに絶望し、そして何故か泣きそうな顔だった。
「『違う、俺は…オレは………』」
尾形上等兵の声と、もう一人、若い男の声。二重に重なった声で喋り、彼は頭を抱えて膝から崩れてしまった。
「『アニサマ…』」
「大丈夫！？」
いや、大丈夫じゃない。大問題だ。
先ずは病室に運ぶ、それからだ。クッソ！こんな時に限って月島軍曹は小樽に戻ってしまうし、宇佐美は少し遠くに居る…！
私ではこの男を抱えれないし、どうしようもない。けれど、運ばなければ……どうする！？
思考が止まることなく回転する。ふと、足音が聞こえた気がした。そちらを振り向くと、見たことある顔が見えた。
「何をしているのだ、A」
旭川基地に来て間もない頃、嵐のように現れ、そして過ぎていった
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿鯉登少尉だった。
＜鯉登目線＞
「『…ﾚは………』」
「…ぅぶ！？」
誰かの話声が聞こえるぞ…？
一人、いや三人か？女と男だな。女と言えば先日会った東谷Aが居たな…何か揉め事だろうか？
鶴見中尉殿の依頼で来た=東谷Aに何かあれば鶴見中尉殿は怒る。
そのような可能性が生まれたので仕方なくAの方へ向かうと、案の定そこに居た。
「何をしているのだ、A」
Aと、その場に居た男、尾形百之助を…いや、これは……？
「‘ソレ’は尾形百之助なのか？」
俺は尾形百之助の姿をした何かに指を指し、Aに問う。
‘ソレ’は禍々しくも何処か懐かしい気配と、錯乱している様子を見せる。Aと、コイツ…後もう一人居ると思ったが…気のせいだったか？
「鯉登少尉殿……説明は後でするから、手伝って欲しいの。」
「……何をだ」
「まさか、‘ソレ’を斬れと申すか？」
尾形百之助は好かん。影で俺の事を‘ボンボン’と言っているのは知っている。中身は知らんが、姿が同じなら、斬っても良いだろう。
「さぁ、どうなんだ？A」
＿＿＿答えて貰おうか
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作者名：文揚げ | 作成日時：2021年10月4日 17時
