*アズユーライク

　 ページ42

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「…A」


“戻りたい”なんて嘘かもしれない。
そりゃ勿論 出来ることなら戻りたいけど。

長い闘病生活は、体だけでなく私の心も蝕んで。


夢とか希望とか未来とか。そういう明るい言葉を私の中から消し去ってしまった。


……そんな毎日を過ごしてたら、生きがいは些細なことに変わってて。


“毎週土曜日のお花”と、“祥彰のお話”と、“窓から覗く海”。
それらを生きがいにしてた私には――“戻る”という言葉がやけに遠く感じた。


さわさわと私と祥彰の髪を撫でる、風の音。

落ちていた気分を掬い上げるように祥彰が口を開く。


「――明日さ、」


そんな言葉に続いた、突拍子もないデートのお誘い。


“天気と体調が良かったら、お散歩しよっか”って。
ただの幼馴染だし、デートと思ってるのは私だけかもしれないけど…舞い上がるほど嬉しくて。


『いく！行きたい！』


沈んでいた気持ちなんてどこかへ飛んでいき、バッと体を起こして食い気味に叫んでた。


「ちょ、そんな興奮したらまた、」
『っ…ゲホ』
「むせちゃうよ……って、ほら 落ち着いて」
『っ、ごめ、』
「謝らないでよ。僕も嬉しいから」


くすくすと笑う祥彰につられて笑顔を見せると、“笑顔の方が似合うよ”って。


甘い言葉に思わず赤面して、目が泳ぐ。


「照れたの？」
『…そんなことないよ』
「なんだ。残念」


残念、なんて期待を持たせる言葉にまた心臓は忙しなく動いて。

それを隠すように、“どこまで散歩出来るかな？”と話を逸らした。


「浜辺は行けないけど…そうだなぁ、あの辺りまでは行けるんじゃない？」


ベッドに浅く腰掛けてた祥彰にぐいと肩を抱かれると、ふわりと香る優しい花の匂い。


手に持っていた花の香りじゃない。
どこか甘くて優しい香りは、紛れもなく祥彰のもので。

上手く話は逸らせたのに、どきどきという心臓の音は早くなる。


『…どこ？』


手のひらの上で転がされてる感じが悔しくて、彼の肩に頭を預けると体が固まった。


「…ずるくない？それ」
『なにが？』
「無意識なの？」
『だから、何――ん』


熱っぽい瞳が私をとらえたまま唇が触れる。


動揺するよりも先に、夕陽が沈む水平線を背負った祥彰を脳裏に焼き付けるよう、ゆっくりと目を閉じた。


「好きだよ、A」


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朱に染まる水平線

AM02:57 sgi→←朱に染まる水平線 ymmt

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