*アズユーライク

ただの男ですよ wtnb ページ40

.


「俺だってね。
――好きな女性の前じゃただの男ですよ」


『……へ？』


“なに馬鹿なこと言ってるの”って先輩らしく言おうとしたのに、こうちゃんの手でソファーに縫い付けられた。


抜け出そうと試みても可愛い顔してビクともしなくて。見せ付けられる男女の差に混乱して、頭の中がはてなで埋まる。

……なんで？
なんで私こうなってるの？


『っ、』
「ね？意外と力強いんですよ」


“そろそろ異性だって認めなよ”…なんて。

耳元で囁かれちゃって？


どこで覚えてきたのよ。
そんな台詞、そんな態度。


可愛げのない“年上の女”が使いそうな言葉が頭には浮かんでくるのに、口は全く動かない。

キャパオーバーな心臓がきゅうっと締め付けられたと思ったら、どきどきと忙しなく暴れ回る。


…ちょっと待ってよ、無理無理！


視線の行き場がなくて見詰めてたら、いつもの可愛い微笑みじゃないニヤッとした悪い顔に思わずノックダウンした。


『や、え……こうちゃ、』
「航平くんにしましょうか」
『な…なんで』
「良いじゃん 航平くんって呼んでみて」


あ、ほら。


“良いでしょ？”“おねがい”って弟みたいな柔らかい表情。可愛い。


おねだりする時はこの顔で迫ってくるって…やっぱりあざとい後輩じゃない、って思ったら安心して。

元から甘やかしちゃうタチだから、渋々口にする コウヘイくんって呼び名。


『……航平くん？』
「うん A」


――本日二度目のノックダウン。


私の方が歳上なのに！
なんでそう、甘ったるい声で呼び捨てなの？


おかしいじゃない、と抗議しようと開いた唇は航平くんの指に撫でられた。


「あまりにも俺のこと意識してくれないから…ちょっとだけ意地悪しちゃった」
『っ…』
「ごめんね？Aさん」


私の髪を優しく撫でる手は男性なのに、言動は普段の優しくって少し生意気な後輩のもので。

心臓が馬鹿になったみたいにドクドクと加速する。


こんな可愛い後輩が狡いくらい男だったなんて気付かなかった。


もう可愛い後輩って言い訳出来なくなっちゃったよ。


『〜〜っいいから退いて！』
「ははっ A可愛い」
『こら！』


どうしようもなく航平くんが好きだって。


たったこれだけの事で意識しちゃうなんて、先輩失格かもしれない。


.
ただの男ですよ

朱に染まる水平線 ymmt→←なみだ色の海に溺れた sgi

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す