◆◇◆ D S H 5 ◆◇◆ 【S】

. ページ29

.





.




「.....で、なんで相葉くん家で中華丼食い逃げして、目が腫れるくらい泣く展開になんだよ？」




午後の講義中、見つからないようにスマホ出して
急いで翔にメッセージを送って。


散々泣きはらした目で帰っていくユリちゃんを見送ったのを見計らって
翔と待ち合わせた。



「.....泣くほど後悔した.....とか？」


「アイツに限って、そんな事なさそうだけど。」



確かに。
何でも人より先に気がついて
何でも人より先にこなしちゃうユリちゃんが
“食い逃げ”で、泣くほど後悔するかな.....？




「.....何でユリちゃん、食い逃げなんかしたんだろう？」



あんなに弱ったユリちゃんを見るのは初めてで
そこから出てきたワードが
“相葉くん“と”食い逃げ“

私には、そこから推理できる展開が思いつかなくて。

翔と並んで、地下鉄の駅に向かいながら
ぼんやりと考える。



「.....おいっ....A！」


翔の声で我に帰ると
目の前に電柱があって。


翔が腕を掴んで引っ張ってくれてたから
顔面激突は免れた。




「.....ったく！
マジでお前、考え込む時の集中力だけはハンパねぇな。」



ため息をついた翔は
私の手をキュッと握って
再び歩き始めた。




「.....あ、相葉くんから返事来た。今日は店に出ないから、フツーに食いに来ていいって。」



「ホント？良かった。」



翔は、片手でスマートに文字を打って。

そのまま地下鉄に乗った私たちは
相葉くんのお店に向かった。




その地下鉄の中で。



「.....なぁ、そもそも、食い逃げなのか？」


隣に座った翔が
腕組みしながらポツリと呟いて。



「.....え？」


「いや、やっぱどう考えても、食い逃げは有り得なくね？」


「でも、ユリちゃんからお金.....預かったよ？」



「.....財布忘れてツケてもらったとか。」


「.....それで、あんなに泣き腫らす......？」



「.....だよなぁ。」


翔は、大きなため息をついて
天井を見た。



一緒になって一生懸命考えてくれるのが
すごく嬉しくて。

(いや、あんなユリちゃんを目の当たりにして
なんとも思わない方がおかしいとは思うけど。)



私が助けて欲しい時に
すぐに行動に移してくれるところが
ものすごく好き。




「.....ありがとね。一緒に考えてくれて。」



隣の翔を見上げて
そう言ったら。


ちょっとだけこっちを見た翔が
ぶっきらぼうに答えた。



「.....当然だ。バーカ。」




.




.

食べに来た、2人。→←食べに行く、2人。

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す