「文スト」俺には貴方さえいれば…「男主」「中/原/中/也」

またきっと明日がくる.40 ページ40

　
　

今考えれば、変だと気づかなかったのがおかしい。
どうして、勢いよく飛びついてきたエリスちゃんの足音が聞こえなかったのか。
どうして、なかはらさんが開けた扉の音が聞こえなかったのか。


　「………………」


あの男性が、後から森さんだと知り、さらに医者でもあると、筆談で知った。
俺の耳はどうやら何らかしらのショックで聞こえなくなったらしい。

原因がわかるまで俺は紅葉姐さんに引き取られるということになった。

原因は、思い当たっていた。
姐さんも、わかっているはずだ。

きっと言わなかったのは、なかはらさんに「あの夢」のことを言わないという約束でだろう。


　「……………」


姐さんに手を引かれながら、俺はうつむいて歩いた。


人混みの中で、するりと、不意に手が抜ける。
しまったと、慌てて顔をあげたが、紅葉姐さんはもう見えない。

どうしよう。
姐さんを見失うなんて。


とりあえず、進むべきかと思い、俺が足を踏み出したその瞬間に、腕を横からすごい力で引っ張られた。


　「……………………!!」


た、


手を伸ばした先に、紅葉姐さんが一瞬だけ見えた。
その瞬間に、言いかけた言葉が喉で止まる。


その言葉を、俺が言ってもいいのだろうか。
もう、このまま俺は消えてしまった方がいいのではと思った。





たすけて…………




その一言がどうしても言えなかった

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