フリーホラゲー好きによる自己満足短編集

包丁さんのうわさ　保健室の少年　寄り ページ5

「良かったねぇ、ほかの怪談だったら、君、殺されてたよ。
僕で本当によかったね」

男の子がゆっくりと近づいてくる。

まさか、包丁さんから逃げ疲れ、
少し休憩しようとした保健室でうっかり寝たら
こんなことになるなんて。

男の子から目はそらさずに後ずさる。

保健室の男の子の話なんて、ただの怪談だと思ってたのに。
引きずり込まれたなんて、冗談じゃない。

逃げようとドアに手をかけるが、やはり開かない。
さっき男の子は、ここには保健室しかないといっていた。

信じたくないが、本当なのだろう。


「大丈夫、殺したりなんかはしないよ。
――ただ、君にはずっとここにいてもらうけど」


彼の唇が弧を描く。


「……一つ、聞いていい？」


別に冷静さを取り戻したわけじゃないが、
今私が考えるべきなのは、自分の身の安全。
ここがどこであろうと、関係ない。

だから私は問う。


「ご飯って、どうするの？」

「へ？」


さっきまでの不気味な笑みがウソのように、
ぽかんと口を開けた男の子。

なんだ、普通の表情してればそれなりに可愛いじゃないか。
あの奇妙な笑い、やめればいいのに。もったいない。


「食べなくても生きていけるの？それとも私、もう死んだの？
でもさっき包丁さんに殺されそうなところを助けてくれたんだよね？」

「え、ああ、うん」

「助けてくれて、本当にありがとう」

「あ、いや、どういたしまして……」


何故か男の子はどもりながらもごもごと話す。戸惑っているようだ。
感謝してと言ったのはそっちなのに。
私の反応が新鮮だったのだろうか。


「ここでは、食べなくても大丈夫、だよ」

「なるほど、だよね。じゃなきゃ私餓死しちゃうから、
ずっと一緒に入られないもんね」


食べる必要がないから、トイレもない。納得納得。


「今までここに引きずり込んだ人はいたの？」

「いたけど、みんな僕が怪談の一つだと知った途端に
気が狂って消滅しちゃった」

「わぉ、そうなんだ」


だから怪談になってるのにここに引きずり込まれた人がいないんだ。


「じゃあ、消滅しなかったのは私が初めて？」

「うん……」


なんか、さっきまでの強気な態度はどこへ行ったのやら。
気の弱い小動物系男子になってしまったみたいだ。

でもさっきの態度を見るからに、案外ロールキャベツだったりして。

そんなことを考えながら、自分の未来のための質問を続ける。
一つと言っときながら……って言ってこないあたり、
この子も意外と優しい。

〃→←〃

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