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選択 ページ45

≪Kinoshita side≫




壁にもたれ掛かったまま、北見先生はじっと扉を見つめている。

その横顔は何を考えているのか。

読み取れそうで、読み取れない。

まるであのよく知る悪魔のように。


私は…試されているんだろうか。





 「別にいいんですよ?止めなくても」




俯いていた顔を上げると、北見先生のぱっちりとした丸い瞳が私の情けない姿を写していた。

私は、こんな所で何をしているんだろう。

ただ、人を、命を、救いたかったのではないのか。




 「1つ、良い事を教えて差し上げます」


木「良い事…?」


 「目の前の患者を救えない人に、誰かを救うことはできません」




ニタリ。

北見先生はゆっくりと口の端を釣り上げて笑った。

背筋に冷たい何かが走る。

美しく、恐ろしい、その笑みはまるで───。




 「さぁ、選択を」




悪魔のようだ。




扉が開いて、中から先程の看護師が出てきた。




宮「北見先生。回診ですか?」


 「うん。点滴、お疲れ様ね」




先程の背筋も凍るような笑みは消えて、今はにこにこと笑っている。

看護師は会釈をして去って行った。
それでも尚、北見先生は壁から背を離さない。
じっと病室を見つめたまま。

本当に点滴を止めないつもりなんだ。

このままでは…あの人が。

1つの命が、消えてしまう。




 「人の敵は、人」




ポツリと一言、呟き声が聞こえる。




 「人の味方も、人」




私は、その言葉に弾かれるように歩き出し彼女の病室へと足を踏み込んだ。

私の目の前には穏やかに眠る恨めしい元上司。
死んで欲しいと願う程、憎んでいる人。

このまま見過ごせばこの人は死ぬかもしれない。

そうすれば、あの日から…看護師を辞めた日から、胸の中に黒く渦巻くこの想いを消せるかもしれない。




それでも、私は。




ゆっくりと、点滴と彼女を繋ぐ管に手を伸ばした。








私は人を救える"人"で在りたい。

同じように→←止めるか、止めないか



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霜月(プロフ) - 重岡ゆう毅さん» ご指摘頂けて本当に助かりました。ありがとうございます!そう言って頂けると本当に嬉しいです♪更新頑張りますね! (2018年6月30日 23時) (レス) id: 830a43c59f (このIDを非表示/違反報告)
重岡ゆう毅(プロフ) - 霜月さん» いえいえ、わざわざありがとうございます!このお話とても好きなので、これからも頑張ってください! (2018年6月30日 14時) (レス) id: 18e1e6c35b (このIDを非表示/違反報告)
霜月(プロフ) - 重岡ゆう毅さん» 誤字のご指摘ありがとうございます!修正致しました。 (2018年6月30日 13時) (レス) id: 830a43c59f (このIDを非表示/違反報告)
重岡ゆう毅(プロフ) - 「掛かっきた電話」ではなく、「掛かってきた電話」ではないでしょうか(・・?) (2018年6月30日 8時) (レス) id: 18e1e6c35b (このIDを非表示/違反報告)
霜月(プロフ) - たぷたぷさん» コメントありがとうございます。佐伯教授、素敵ですよね♪機会が作れたら書きますね!これからも宜しくお願い致します。 (2018年6月28日 23時) (レス) id: 830a43c59f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:霜月 | 作成日時:2018年6月9日 2時

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