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当直 ページ34

あれから大人しく医局に戻ったけれど、もやもやとした気分は晴れない。
今日一日は暗い感情を抱えたまま仕事を進めた。

あんな医療過誤の話を聞いてしまっては、やはり気が重い。
それに…嫌なことまで思い出しそうになる。
その度に頭を振って、それを外へ追いやる。

おかげで仕事に身が入らず、まだ書類仕事が残ったままだ。
今日が当直なのが不幸中の幸い。
朝まで時間は沢山ある。

本日の当直は私と権の字、それから他の医師が2名ほど。
研修医の子も一人居た気がする。

急患でも無い限り暇だろうから、この夜長のお供にしてしまおう。
ため息を1つついて手を動かしていく。




高「A、大丈夫か?」


 「んー?何が?」




隣で論文を作っていた権の字がパソコンから顔を上げて私の方を心配そうに見てくる。

そっと手が伸びてきて頬をムニッと摘まれた。




高「顔色が悪い」


 「そんなことないよ」




頬を摘んでいる手を取って握る。
権の字はもう一つの空いている手で頭を撫でてきた。
珍しいこともあるものだ。
こんな事は滅多にしないのに。

私よりも幾分大きい手から温もりが伝わってきて、波立っていた心が少し落ち着いた気がする。




高「少し仮眠を取ったらどうだ?」


 「でも、まだ仕事が残ってる」


高「その書類だけだろう?私が引き受けるから」




そう言って私の手を取ったまま立ち上がる。
更にデスクの上にあった書類を取られてしまった。
こうなっては仕方が無い。
私も立ち上がって椅子の背もたれに掛けていたお気に入りのブランケットを掴む。

右手は私の手を、左手は書類と自身のノートパソコンを持って権の字は医局の奥にあるソファへと向かって行く。

三人掛けくらいのソファに私は丸まって寝転がり、丸まったことで空いたギリギリ一人分くらいのスペースに権の字が座った。

ぎゅうぎゅう詰めだけど、この、側に人がいる感じがとても落ち着く。




高「2時間したら起こせばいいか?」


 「うん。ねぇ、権の字」


高「分かってる。ずっとここに居るから」


 「…ありがとう。おやすみ」




掴んできた毛布を口元まで被った。

毛布の温かさと、権の字の髪を撫でる手の温もりを感じて、私は瞼を下ろす。

眠ったら、少しはスッキリするだろうか。
この胸に燻る嫌な思いを消すことは出来ずとも、小さくする事くらいは出来るだろうか。

ゆっくりと薄れていく意識の中。
そんなことをぼんやりと考えた。

仮眠の時は→←陽の下で



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霜月(プロフ) - 重岡ゆう毅さん» ご指摘頂けて本当に助かりました。ありがとうございます!そう言って頂けると本当に嬉しいです♪更新頑張りますね! (2018年6月30日 23時) (レス) id: 830a43c59f (このIDを非表示/違反報告)
重岡ゆう毅(プロフ) - 霜月さん» いえいえ、わざわざありがとうございます!このお話とても好きなので、これからも頑張ってください! (2018年6月30日 14時) (レス) id: 18e1e6c35b (このIDを非表示/違反報告)
霜月(プロフ) - 重岡ゆう毅さん» 誤字のご指摘ありがとうございます!修正致しました。 (2018年6月30日 13時) (レス) id: 830a43c59f (このIDを非表示/違反報告)
重岡ゆう毅(プロフ) - 「掛かっきた電話」ではなく、「掛かってきた電話」ではないでしょうか(・・?) (2018年6月30日 8時) (レス) id: 18e1e6c35b (このIDを非表示/違反報告)
霜月(プロフ) - たぷたぷさん» コメントありがとうございます。佐伯教授、素敵ですよね♪機会が作れたら書きますね!これからも宜しくお願い致します。 (2018年6月28日 23時) (レス) id: 830a43c59f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:霜月 | 作成日時:2018年6月9日 2時

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