僕らの世界5 (ページ18)

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心配ページ18

『今日は、休ませてもらっていいですか』

今日、1ヶ月ちょっと毎日続けてきたランニングを、初めて休んだ。先輩にメールを送ると、すぐに
『何かあった？』
と返ってきた。
俺ー進藤海斗ーは、返事にすごく悩んでいる。
何があったかというと、高等部生徒会の「道場破り」のことだ。青葉先輩からその一部始終を聞いた。先輩は、もしも乱闘になったら自分が第一線で応戦すると言っていた。でも、もしも暴力が学校にバレたら、ただじゃ済まない。陸上長距離の要である先輩は、もっと自分を大切にしなきゃいけない。それをどうやって伝えるか、分からない。先輩の顔を見たくなかった。見たら涙が止まらなくなるかもしれないから。

悩みに悩んだ末、
『生意気だと思うかもしれないんですけど、』
と前置きだけ先に送信してから、
『6月10日、暴力はダメだと思います』
伝えたいことを正直に伝えた。あまり長い時間悩むと、先輩が心配すると思ったから、もう正面突破だ。
『先輩は、もっと自分を大切にしなきゃダメです』
そう送ったところで、返事が来た。
『説得力ないね笑』
『心配してくれてありがとう、進藤くんも自分を大切にね』
『でも、俺がやらなきゃダメなんだ』
『俺と貴大くらいしか応戦できる人いないから』
俺は、2重の意味で泣きたくなった。1つは、先輩が思い切りすぎていることに。もう1つは、自分の無力さに。

『俺が防御します、攻撃はダメです。先輩は陸上長距離の要だから、暴力は絶対ダメです』
『先輩がやるくらいなら、俺がやります』
もう、ヤケになっていた。自分のことはどうでもよくなった。さっき先輩から送られてきた、「自分を大切に」という言葉は、もう忘れた。

『進藤くんも立派なランナーで、サックス奏者だ。ランナーなら足を、サックス奏者なら手を、もっと大事にしろ。自分を犠牲にすればとか、考えない。俺は心配いらない。この際、人の心配より自分の心配をしろ。先輩命令。自分を大切に。』
返事が途絶えたと思って別のアプリを開いていたら、忘れた頃に答えが返ってきた。命令形で、長文の答え。『自分を大切に』という最後の言葉が、深く刺さった。俺には重すぎる言葉だった。
今度こそ、泣いた。詳しく言うと、気付いたら涙が流れていた。俺は『分かりました』とだけ送って、その後は疲れて寝るまで泣いていた。