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…
「え……お前どっから入ったの?」
少しぼうっとして、間抜けな声が口からこぼれ落ちた。
目の前のひかるがあまりにも普通で、長い間ひかるが
いなかったことを思い出すのに時間がかかったからだ。
「それ "つたって" ひょいひょいっと」
「……まじか」
ひかるは、地上から上の階まで壁づたいに伸びている
すすけて黒くなった金属製のパイプを指さして笑った。
ひかるの手のひらを開いて見ると、指先まで黒く汚れ
焼けてツルツルになった皮膚が痛そうに赤らんでいる。
「危ないだろ、、顔に怪我でもしたらどうすんだよ。
……芸能人なのに」
トゲのある言い方だった。それは俺自身にも刺さった。
いたたまれなくなり、ひかるの手のひらをぱたぱたと
払ってごまかす。下から覗き込むようにひかるの顔が
近づいてきて、よけそうになるのをぐっ、とこらえた。
「 電話できなくてごめんね?」
仕事忙しかったんだろ?いいことじゃん。
会えたら言おうと決めていた強がりが喉につっかえて
たぶん、ひかるをちょっとがっかりさせた。
背中を押したくせに、どこ行ってたんだよって拗ねた
顔しかできない。
「ドラマのロケで長野に行ってたの。
……星きれいだったよ」
ひかるはそう言ってスマホを見せてくれた。画面いっ
ぱいにまぶしたような星空がしんー、と広がっている。
「こっちで撮影してるあいだ、監督に怒られてばっか
だった。天涯孤独でさびしい役なのに目が死んでない。
君全然だめだねって」
手すりに体重を預けたひかるの背中は、風が吹いたら
消えてしまいそうなほど不確かだ。
「がっかりさせたくなくて、、やぶには言えなかった。
でも、電話で声が聞けるだけでもめっちゃ元気出たし、
毎日電話するのが楽しみで……楽しみで楽しみで……
このままじゃだめだと思った」
ひかるはつんー、と鼻先を上に向けて息を吸い込んだ。
頭のいい、なんとかって犬みたいに。
「長野にいるあいだはやぶに連絡しないぞって決めて
……すっごくつらかった。
でも「目が変わったね」って監督に褒めてもらえたし
お芝居のヒントも掴めたし………ぜんぶやぶのおかげ」
まさか、と思った。やられた、と思った。
この2週間余りの音信不通も、降るようなさみしさも、
すべてはひかるが役作りのためにしつらえた時間__。
俺は怒ればいいのか、プロだなって褒めればいいのか、
ひかるらしいよって笑えばいいのか、わからなかった。
ふいに振り返ったひかるが幸せそうにほほ笑むまでは。
「おれやぶがいないと、孤独にもなれない」
…
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しょこる(プロフ) - しろくまさん» ありがとうございます★ダイヤモンドのように硬くて誰にも壊せない絆を描けて満足です^^次のステージにすすんだ2人に幸あれ☆彡 (2020年6月17日 17時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - 完結、おめでとうございます。キュンキュン、ハラハラ、不器用な2人のキラキラ光る恋に魅了されました。ダイヤモンドにも負けない輝きを放つ2人の人生に全力で拍手を送ります!素敵なお話をありがとうございました。 (2020年6月11日 21時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - しろくまさん» ダイヤモンドは綺麗なだけじゃなくて、外から簡単に傷つけることができない硬さも魅力ですからね*残り数ページ、ふたりのキラキラの行方を見届けてください(-人-) (2020年4月28日 14時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - か弱そうに見えて、その実ダイヤモンドのように硬質な輝きを放つひかちゃんに心奪われます。どうかこの二人がきらめく舞台を続けていけますように…!! (2020年4月5日 20時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - きょーかさん» こちらこそいつもコメントありがとうございます*お話も佳境に入ってきたのでどんどん書き進めていきます^^ (2020年3月26日 18時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しょこる | 作成日時:2019年7月27日 22時