13カラット ページ44
…
連日満席の劇場、２度の追加公演、カーテンコールで
ひかるが涙を流した千秋楽。
桜が咲いて散るまでつづいたひかるのデビュー公演は
ひかるが例の事件のファム・ファタールなのかという
謎めいた疑惑が箔を付け、演劇誌やネットニュースの
一面を飾った。
ひかるのデビューをあざける週刊誌もあるにはあるが
今ではひかるとふたり笑って流している。
ひかるが俺を誘惑したってのも＿＿まぁ嘘ではないし。
「えっちしよって誘ったのもお前だし
激しくしてって言ったのもお前」
「そうだけど、っ、あっ！だめっ！」
「ダメじゃない」
「っ、やぶっもぉムリ抜いてぇっ…！」
逆手でシーツを鷲掴み、ひかるは真っ白な肢体を高く
のけぞらせた。みぞおちの窪みには、さっきワインを
入れて飲んだ赤黒い染みがあって、汗でたらたら、と
脇腹へ流れていくのを口づけてすすった。
公演成功のお祝いにと、ひかるはグラスになって俺を
誘ったってわけだ。
「はやく次の脚本も書かなきゃな」
「……今度はどんなお話？」
あるだけ出し切って寝そべった俺の胸板に、つん、と
あごを乗せてひかるが笑う。
春色の髪を撫でて、目を閉じると、色んな衣装を身に
まとったひかるが次々と現れ、おれを先に書いて、と
ウインクするのだ。
あの日の俺は世界一悩ましくて、幸福な脚本家だった。
*.+ﾟ
稽古場で次回作の打ち合わせをしていた雨夜のことだ。
俺は部屋に残してきたひかるの『晩ごはん、カレーか
肉じゃがどっちがいい？』ってメールを返していない
ことが気がかりで、スーツの男に差し出された名刺の
文字が上手く読めなかった。
「八乙女くんのこと、悪いようにはしません」
芸能事務所。スカウトマン。
ひかるをジュエリーのCMに起用したいと言ったその
男は、蜂蜜みたいな声をしていた。
「本人と話してみます」
「是非」
どうしてはっきり断れなかったんだろう、と帰り道で
自分に問いかけた。
手放したくないはずだ。
手放したくないと言ってくれ。
「……これ何？」
「ん？カレー味の肉じゃが」
器に盛られた黄色い肉じゃがが、甘じょっぱい湯気を
立てる。冷めてしまうのは惜しいと思った。
俺の中で、何かを惜しむ感情はけっして死んでいない。
「ちょっと外出よう」
「……今？」
黙って見つめると、ひかるは頷いた。
からから、とガラス戸を開けて夜のベランダに出ると
無数の星が瞳みたいに瞬きをする。
手すりに腕を乗せてもたれると、ひかるも真似をした。
鼻から吸い込んだ空気は、ほろ苦い春の匂いだ。
…
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しょこる(プロフ) - しろくまさん» ありがとうございます★ダイヤモンドのように硬くて誰にも壊せない絆を描けて満足です^^次のステージにすすんだ２人に幸あれ☆彡 (2020年6月17日 17時) (
レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - 完結、おめでとうございます。キュンキュン、ハラハラ、不器用な2人のキラキラ光る恋に魅了されました。ダイヤモンドにも負けない輝きを放つ２人の人生に全力で拍手を送ります！素敵なお話をありがとうございました。 (2020年6月11日 21時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - しろくまさん» ダイヤモンドは綺麗なだけじゃなくて、外から簡単に傷つけることができない硬さも魅力ですからね＊残り数ページ、ふたりのキラキラの行方を見届けてください(-人-) (2020年4月28日 14時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - か弱そうに見えて、その実ダイヤモンドのように硬質な輝きを放つひかちゃんに心奪われます。どうかこの二人がきらめく舞台を続けていけますように…！！ (2020年4月5日 20時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - きょーかさん» こちらこそいつもコメントありがとうございます＊お話も佳境に入ってきたのでどんどん書き進めていきます^^ (2020年3月26日 18時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しょこる
| 作成日時：2019年7月27日 22時
