＊ ページ43
…
不穏な空気を感じ取った劇団員たちも俺とひかるの
まわりに集まり始めている。
ひかるはそんな空気にまで、幕をおろすように瞼を
閉じて、それからパッと開いて言った。
「バレンタインに、おれがやぶの舞台に立つ。
……それだけは嘘にしたくない」
ひかるといると、俺は弱虫になる。
ひかるの芯の強さに、けっして折れないしなやかさに、
いつの間にかこうして憧れていたんだ。
「……やぶ、お願い」
「やらせて」
*.+ﾟ
あの日のひかるは、カーテンコールを浴びたひかるは、
逆風を味方につけて堂々と海原をゆく自由な船だった。
ゴールはひとつじゃない。航路もひとつじゃない。
芝居は勝ち負けじゃないけど、それでも思ってしまう。
きらきらと虹色に輝いてみせた、ひかるの勝ちだって。
「ありがとうございましたーっ！！」
最前列の観客が、涼介が、そして、壁際の野次馬達が、
まるでドミノが倒れるように、涙をたたえて拍手する
のを見た。
あの日、俺の立っていた舞台袖が１番の特等席だった。
「カーテンコールってのは、声出しちゃダメなの」
「……我慢できなかったんだもん」
ベッドを背もたれにしたひかるが俺の肩にすり寄った。
ひかるは打ち上げでビールをたくさん飲み、千鳥足な
スピーチで笑いを誘い、トイレの外で待ち伏せていた
俺に連れ去られて、今ここにいる。
「そうだこれ、、バレンタインのチョコ」
「もしかして手作り？」
ひかるは照れくさそうにこくん、と頷いた。
白いリボンを解いて、ロイヤルブルーの箱を開けると
四角くて平べったいチョコが魚の鱗みたいに重なって
チョコの上にはナッツやドライフルーツがこんもりと
飾られている。
「洒落たチョコだな」
「……なにか思い出さない？」
ひかるの期待に満ちた眼差しが頬や首に刺さるけれど
生憎このチョコに見覚えはなくて、瞬きだけが増えた。
「出会った日に、、ここで食べちゃったチョコ」
と、ひかるは心底申し訳なさそうに目を伏せて言った。
「あぁ、こんなんだっけか」
「…なんだ覚えてないんだ」
しゅんとする恋人が愛おしくて、ふくれた頬をそっと
包んで、こっちを向かせた。
「俺あん時、ひかるのことしか見てなかったから」
「やぶ…」
ひかるの憂鬱が砂糖みたいに溶けていくのがわかった。
たまには、偶然生まれた甘い空気に身をゆだねてみる。
「ありがとう」
俺と出会ってくれて。舞台に立ってくれて。
そういうとめどない気持ちで、朝まで抱きしめていた。
…
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しょこる(プロフ) - しろくまさん» ありがとうございます★ダイヤモンドのように硬くて誰にも壊せない絆を描けて満足です^^次のステージにすすんだ２人に幸あれ☆彡 (2020年6月17日 17時) (
レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - 完結、おめでとうございます。キュンキュン、ハラハラ、不器用な2人のキラキラ光る恋に魅了されました。ダイヤモンドにも負けない輝きを放つ２人の人生に全力で拍手を送ります！素敵なお話をありがとうございました。 (2020年6月11日 21時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - しろくまさん» ダイヤモンドは綺麗なだけじゃなくて、外から簡単に傷つけることができない硬さも魅力ですからね＊残り数ページ、ふたりのキラキラの行方を見届けてください(-人-) (2020年4月28日 14時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - か弱そうに見えて、その実ダイヤモンドのように硬質な輝きを放つひかちゃんに心奪われます。どうかこの二人がきらめく舞台を続けていけますように…！！ (2020年4月5日 20時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - きょーかさん» こちらこそいつもコメントありがとうございます＊お話も佳境に入ってきたのでどんどん書き進めていきます^^ (2020年3月26日 18時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しょこる
| 作成日時：2019年7月27日 22時
