＊ ページ42
…
ひかるは黒目をカタカタと上下に動かしながら、表情
ひとつ変えずに記事を読んでいく。
偏見と脚色まみれの記事を飲み込もうとしているのか
薄い喉仏もたまに上下した。
「ファム・ファタールって？」
「……男を破滅させる女って意味」
ひかるは言った。おれ、男なのにね、と。
「この小説？すっごくつまんないから
やぶが直してあげたほうがいいよ」
ひかるを奪い合った末、老人２人は愛欲に狂い、薬に
手を出した。すべてを終わらせるため警察にリークし
自由を手に入れたひかるは、小劇団の脚本家を誘惑し
主演の座をもぎ取った。
そんなくだらない作り話を読んで、ひかるはふっ、と
笑った。小さな火が消えるような、そんな笑みだった。
ざわざわと胸が波立つのと、背後から聞こえきた音が
重なり、あわてて幕に駆け寄って隙間から客席を見る。
「まだ入れるなって言ったのに…っ」
ぽつぽつ客席を埋めていく観客の後ろで、野次馬達が
カメラ片手に立見席を陣取って、あろうことか三脚を
立てはじめる輩もいた。
音もなく隣に並んでいたひかるは、何か察したように
鼻から息を吐いて、満員だね、と、噛み締めるように
言った。
「……残念だけど今日は、、」
「やめないよ」
ひかるの横顔が力強くて困ってしまう。
悪い奴らからひかるを守りたいだけなのに、まるで
いらない、と、言われているみたいで。
「あんな奴らに負けたくないのはわかるけど…」
「そうじゃないよ。
芝居は勝ち負けじゃないでしょ？」
そう言い切って、ひかるは笑った。
俺の目を見て、にっこり、いつもと変わらない笑顔で。
「ただ思いっきり、泣かせてやりたい」
どっかで聞いた台詞だな、と思っていると服の上から
ニの腕を掴まれ、頬と頬がくっつくくらいに近づいた。
ひかるが黙って指さす先に目を凝らすと、不安そうに
でも真っすぐに、涼介が閉まりきった黒い幕をじっと
見つめていた。
「あークソッ、！！」
前髪をぐしゃぐしゃに掻き乱しながら、狭い舞台袖を
行ったり来たりして、揺れつづける天秤に「止まって
くれ」と叫びだしそうになった。
ひかるを守りたい。
ひかるを傷つける言葉や視線から、ひかるを守りたい。
だけど、ひかるの覚悟や努力も守ってやりたくて＿＿。
「……やぶ」
雨漏りみたいな声に振り返ると、臙脂の幕を背にした
ひかるは、まるで愛おしそうに週刊誌をひと撫でして、
「これ嘘ばっかりだけど…
１番大事なことはちゃんと書いてあるよ」
と、そう言って、腹から息を吸った。
…
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しょこる(プロフ) - しろくまさん» ありがとうございます★ダイヤモンドのように硬くて誰にも壊せない絆を描けて満足です^^次のステージにすすんだ２人に幸あれ☆彡 (2020年6月17日 17時) (
レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - 完結、おめでとうございます。キュンキュン、ハラハラ、不器用な2人のキラキラ光る恋に魅了されました。ダイヤモンドにも負けない輝きを放つ２人の人生に全力で拍手を送ります！素敵なお話をありがとうございました。 (2020年6月11日 21時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - しろくまさん» ダイヤモンドは綺麗なだけじゃなくて、外から簡単に傷つけることができない硬さも魅力ですからね＊残り数ページ、ふたりのキラキラの行方を見届けてください(-人-) (2020年4月28日 14時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - か弱そうに見えて、その実ダイヤモンドのように硬質な輝きを放つひかちゃんに心奪われます。どうかこの二人がきらめく舞台を続けていけますように…！！ (2020年4月5日 20時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - きょーかさん» こちらこそいつもコメントありがとうございます＊お話も佳境に入ってきたのでどんどん書き進めていきます^^ (2020年3月26日 18時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しょこる
| 作成日時：2019年7月27日 22時
