６カラット ページ20
…
懐かしい匂いに目を覚ました。
これは真新しい空気と炊きたての米と、しょっぱい
おかずの匂いが混ざった、朝の匂いだ。
実家で暮らしていた頃にタイムスリップしたような
不思議な感覚に襲われ、眠気まなこで部屋を見回す。
「やぶ、おはよ」
「……これ、お前が作ったの？」
ローテーブルに並んだ完璧な朝食。
白いご飯と、柔らかそうな卵焼きと、ほうれん草の
おひたしと。
そして、ひかるが湯気の立った味噌汁を運んでくる
ところだった。
「ひかるって料理できたんだ……」
「そりゃ、一人暮らし長いからね」
いただきますと手を合わせたひかるは、昨日と違う
シンプルで清潔な白シャツを着ている。
俺もあわてて、いただきます、と、拝むように手を
あわせた。
「やぶの部屋なーんにもないからさ、
ウチから色々持ってきちゃった」
水とビールしか入っていない空っぽの冷蔵庫を盗み
見た。センスのいい食器は、箸以外、全部はじめて
見る代物だ。
「………
久しぶりの味噌汁に、思わず手が伸びた。
味噌汁の具はマイタケとネギで、滋味深い味わいが
酒でくたびれた胃腸に沁みる。
卵焼きは塩加減がちょうどよく、おひたしは擦った
ゴマの匂いが心地よく、白いご飯がどんどん進んだ。
「こんなに料理できんなら早く言えよ。
俺がカップ麺ばっか食ってんの知ってるだろ？」
言い終わるが早いか否か卵焼きを頬張る。
それから、味噌汁をズズズ、と音を立ててすすった。
「……なにその顔？」
ひかるは持ち上げたばかりの箸を置いて、頬っぺを
ぽんぽこりんに膨らませ、恨みたっぷりにこっちを
睨んでいる。
「おれ、付き合ってもない人に
手料理食べさせたりしないからっ」
リンゴ剥いたけどいるっ？
冷たい態度とは裏腹に、新妻みたいな言葉を残して、
そそくさとキッチンに向かう背中に、じんわり思う。
俺たち付き合ってんだ……へぇー……。
久しぶりの恋人に、頬がゆるんで、こらえると痛い。
愛おしい小部屋、朝食の湯気、ここから始まるって
真っ白なスタートライン。
思わず、ひかるの後を追って、後ろから抱きしめた。
ひかるはリンゴの皿にかけたサランラップを丁寧に
めくっている。
「１個ちょうだい」
「……はい、あーん」
「あーん」
「……おいし？」
「んっ、」
「……ふふっ」
口いっぱいに、入るだけ頬張った。
リンゴの形をした幸せを噛みしめると、蜜の入った
匂いが鼻を抜ける。
そういえばもうすぐ、リンゴの美味しい白い季節だ。
…
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しょこる(プロフ) - しろくまさん» ありがとうございます★ダイヤモンドのように硬くて誰にも壊せない絆を描けて満足です^^次のステージにすすんだ２人に幸あれ☆彡 (2020年6月17日 17時) (
レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - 完結、おめでとうございます。キュンキュン、ハラハラ、不器用な2人のキラキラ光る恋に魅了されました。ダイヤモンドにも負けない輝きを放つ２人の人生に全力で拍手を送ります！素敵なお話をありがとうございました。 (2020年6月11日 21時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - しろくまさん» ダイヤモンドは綺麗なだけじゃなくて、外から簡単に傷つけることができない硬さも魅力ですからね＊残り数ページ、ふたりのキラキラの行方を見届けてください(-人-) (2020年4月28日 14時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - か弱そうに見えて、その実ダイヤモンドのように硬質な輝きを放つひかちゃんに心奪われます。どうかこの二人がきらめく舞台を続けていけますように…！！ (2020年4月5日 20時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - きょーかさん» こちらこそいつもコメントありがとうございます＊お話も佳境に入ってきたのでどんどん書き進めていきます^^ (2020年3月26日 18時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しょこる
| 作成日時：2019年7月27日 22時
