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…
「ただいまー……」
酔いが回っているせいか、靴を脱ぐのには手こずるし、
部屋の明かりが煌々と眩しく感じた。
「……ひかる?」
部屋の中は家を出たときのまま、静まりかえっている。
ひかるがベッドに突っ伏し、寝息を立てている以外は。
「……ひかる寝てんの?」
僅かに肩が上下していた。
足元にはネギみたいに細く丸まった台本が転げていて、
何の気なしにそれを拾うと、ひかるの寝顔が近かった。
「…ん、…」
幼さの残る寝顔を、ふっくら、した頬をつついてみる。
ふにふにして気持ちーなーと、しつこく続けていると、
ひかるは寝苦しそうに顔をしかめた後、目を覚ました。
「っ、あ、え、やぶ…っ!?」
冬眠から目覚めたクマみたいにノっそり起きるのかと
思いきや、ひかるはクマに起こされたウサギみたいに
危機感たっぷりに飛び起きて、あわてて喋りはじめた。
俺は、捕って食おうなんて思っちゃいないのに。
「おれ、さっきまで練習してたんだけどねっ」
「……うん」
「ほんとについさっき寝ちゃっただけで…っ」
「……ん。わかってる」
必死になって、認められようとする姿がいじらしくて、
吸い寄せられるように、髪を撫でていた。
ひかるはいたたまれないって
うつむいている。
「やぶ、酔ってるの?」
「……まぁ、、ちょっとは」
か細い栗色の髪を首筋まで指で梳くと、睫毛が揺れた。
ひかるは太ももの間に手を挟んで、モジモジしている。
こればっかりは、演技じゃないといいけど。
「……ひか、」
「じゃあ今日はゆっくり寝てねっ。
チェックは明日お願いっ」
ひかるがおもむろに立ちあがって、背中を向けられて、
思わず、その手首を掴んでいた。
ひかるは心底心配そうに、「やぶ、どうしたの?」と
眉を下げている。
可愛くて、頑張り屋で、気まぐれで、鈍感なやつ__。
「チューしてやるから、来いよ」
一瞬、時間が止まったように、ふたりの間に句読点が
打たれ、それから、みるみるうちにひかるは真っ赤に
なっていった。
ついこないだまで挨拶みたいにしていたキスを自分で
やめた癖に、俺の言葉に耳まで真っ赤に染めて瞬きが
止まらない。
ひかるも、俺みたいに、暑さのせいにしてしまいたい
気持ちがあるんだって、浮かれていいんだろうか__。
もう何年も芝居のことばっかりで恋愛なんてご無沙汰、
男と一線越えた経験なし、本と煙草が恋人のアラサー。
俺みたいな味のなくなったチューインガムに、わかる
わけないだろ。
…
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しょこる(プロフ) - しろくまさん» ありがとうございます★ダイヤモンドのように硬くて誰にも壊せない絆を描けて満足です^^次のステージにすすんだ2人に幸あれ☆彡 (2020年6月17日 17時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - 完結、おめでとうございます。キュンキュン、ハラハラ、不器用な2人のキラキラ光る恋に魅了されました。ダイヤモンドにも負けない輝きを放つ2人の人生に全力で拍手を送ります!素敵なお話をありがとうございました。 (2020年6月11日 21時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - しろくまさん» ダイヤモンドは綺麗なだけじゃなくて、外から簡単に傷つけることができない硬さも魅力ですからね*残り数ページ、ふたりのキラキラの行方を見届けてください(-人-) (2020年4月28日 14時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - か弱そうに見えて、その実ダイヤモンドのように硬質な輝きを放つひかちゃんに心奪われます。どうかこの二人がきらめく舞台を続けていけますように…!! (2020年4月5日 20時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - きょーかさん» こちらこそいつもコメントありがとうございます*お話も佳境に入ってきたのでどんどん書き進めていきます^^ (2020年3月26日 18時) (レス) id: 93d8c8f749 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しょこる | 作成日時:2019年7月27日 22時