「奇抜な放課後」 ページ10
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ママの義理の弟は、名前を大倉忠義、と名乗った。
律儀に漢字まで説明してくれて、なんだか画数が多くて難しい名前だと思う。
タダヨシという名前は初めて聞いたし、武士みたいで、すこし古風で、それがこのひとの端正な外見に似合っているような気もするし、と同時に予想外な名前でもあった。
「その制服、西高やろ。」
ホットコーヒーの入った紙のカップを指で触りながら、わたしの方をふいに見る。眉毛をすこし持ち上げて。
「あ…はい。」
わたしは頷き、それから所在なく思って、自分のカップを両手で包んでみた。ダンボールみたいな素材でできたケースのおかげで、ぴったり指をくっつけても熱くない。
「俺な、西高の近くに住んでんねん。その制服の子たち、よう見るわ。」
そう言うとカップを傾けてコーヒーを啜る、忠義さん。
わたしは、特に上手な返事が思いつかなくて、「そうなんですね。」と言ってみた。すこし緊張していた。初対面(厳密に言えば初対面じゃないけど)のひとと喋るのは、苦手だった。
忠義さんがわたしを連れてきたのは、わたしはあんまり行ったことのない、ちょっと高めのチェーン店のカフェで、
わたしはコーヒーが飲めないからロイヤルミルクティーを頼んだのだけど、忠義さんがお金を払ってくれてしまった。
なんだか、罪悪感がある。知らないひとに何かをご馳走してもらってしまったような、感覚。
「今、何年生なん?」
「高校二年生です。」
「17歳とか…?」
わたしが頷くと、忠義さんは「うわ、若いな」と驚き笑いを浮かべる。
忠義さんとコーヒーの入ったカップは、なんだか絵になった。雑誌のひとページみたいって、思った。
「…忠義さんは、おいくつですか?」
と、わたしは緊張しながら尋ねる。
カップの中のミルクティーはさっき一度飲んでみようと思ったんだけど、熱くて舌先をちょっと火傷してしまったからもうすこし待たなければいけない。
「23歳。まあ、まだ大学行ってんねんけど。」
「大学生…」
「大学院生な。」
「へえ…。」
わたしはわかったように頷きながら、手元に視線を落とす。
白い、プラスティックでできたカップの蓋。
飲み口のところにうっすらピンク色がついてた。わたしの、リップの色。
「そういえば、」
ふと顔をあげ、忠義さんを見た。
「ママに、なんの用だったんですか?」
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蒼 夢見子(プロフ) - 幸さん» 幸様、心のこもったあたたかいお言葉ありがとうございます。こんなこと言っていただけるとすこし自惚れてしまいそうだなと思ってしまうほど本当にうれしいです。お礼を言いたいのはこちらのほうです…私は幸さんのコメントにあたたかい気持ちになりました^^ (2019年11月26日 19時) (レス) id: c01abe0da9 (このIDを非表示/違反報告)
幸 - 夢見子さんの作品は、何でこんなに引き込まれるんだろう…と、日々不思議に思っています。(笑) ものすごく好きな作者さんです。暖かい気持ちにさせてくれて、ありがとう。私も、夢見子さんのように、誰かを暖かい気持ちにさせられる人になりたいです。 (2019年11月21日 20時) (レス) id: 295a9fdbac (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 碧さん» 碧様、初めまして。お返事遅くなりすみません(涙)そう言っていただけてとてもとても嬉しいです。思うように書けずにいて読んでくださっている皆さんには申し訳ない気持ちですが…あたたかいコメントを糧に頑張ろうと思います!ありがとうございます! (2019年4月7日 0時) (レス) id: 0c7f8e1b68 (このIDを非表示/違反報告)
碧 - 初めまして。すごく楽しみに読ませて頂いています。夢見子さんの作品はいつも切なくて温かいものばかりで、大好きです!応援しています。 (2019年4月2日 18時) (レス) id: d6c70f3491 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 翠穂さん» 翠穂様、お返事大変遅れてしまってごめんなさい…!そしてあたたかいコメントありがとうございます(涙)すこしずつしか更新ができていませんが今後の展開も見守っていただけるとうれしいです! (2019年3月25日 12時) (レス) id: 742d92b89e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2019年1月30日 0時