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確かにそのひとの顔を見たことはある気がしたけれど、でも、そのひとがわたしの名前を知っていることに違和感しかなくて、わたしは黙り込んでしまうと、
「急に知らんひとに名前呼ばれて、びっくりするよな。」
ごめんなってそのひとは表情をいくらかやわらかく崩した。
「…お母さんに用事あってんけど、おる?」
やっぱり、職場のひとだろうか。だから見たことがあるのかもしれない。
そう思いながら、そのひとの顔をまじまじと見上げた。目がふつうのひとよりずっと、茶色かった。
「今日、仕事で…。」
「…そっか。」
ドアのほうにちらりと目をやって、それからすこしうっとおしそうな長い前髪を搔き上げるそのひと。
「…あの…どちらさまですか?」
ママに用があって来たなら、ママに報告をする必要があるし、そしてなにより、このひとがどうしてわたしの名前を知っているのか、気になった。
その人は視線を流してわたしを見下ろすと、すこし何かを悩むような表情を見せて、それから、
「お母さんの、義理の弟。」
と、言った。
「…え?」
わたしは思わず、訊き返してしまう。予想もしていなかった回答だった。
ママに弟がいたなんて、聞いたことがない。
「て言うても、まあ、わからへんか。」
義理の意味はわかる。血が繋がってないとか、そういうことだった気がする。
だけどママの家族は死んだおばあちゃんとそれからわたしだけだと思っていたから、よくわからなくなってしまった。
わたしの困惑した様子に気づいたのか、ママの義理の弟と名乗るそのひとは、尖った目頭をした端正な形の瞳で私をやさしく見下ろす。
「三年前におばあちゃん、亡くなったやろ?」
わたしはよくわからないまま、ちいさく頷いた。
「そのおばあちゃんの元旦那、やから、Aちゃんのおじいさんにあたるひとやな。多分会うたことないんやと思うけど。俺はそのひとの再婚相手の、息子。」
眉間にしわを寄せ宙の透明を眺め、言われた言葉を頭の中で復唱してみる。
わたしのおじいさんの、再婚相手の息子。
「…俺も連れ子やから、Aちゃんのおじいさんともお母さんとも血いは繋がってへんのよ。」
言われたことすべてを理解できたわけじゃないけど、わたしは止まりかけの首振りはりこみたいにゆっくり二度、頷いた。
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蒼 夢見子(プロフ) - 幸さん» 幸様、心のこもったあたたかいお言葉ありがとうございます。こんなこと言っていただけるとすこし自惚れてしまいそうだなと思ってしまうほど本当にうれしいです。お礼を言いたいのはこちらのほうです…私は幸さんのコメントにあたたかい気持ちになりました^^ (2019年11月26日 19時) (レス) id: c01abe0da9 (このIDを非表示/違反報告)
幸 - 夢見子さんの作品は、何でこんなに引き込まれるんだろう…と、日々不思議に思っています。(笑) ものすごく好きな作者さんです。暖かい気持ちにさせてくれて、ありがとう。私も、夢見子さんのように、誰かを暖かい気持ちにさせられる人になりたいです。 (2019年11月21日 20時) (レス) id: 295a9fdbac (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 碧さん» 碧様、初めまして。お返事遅くなりすみません(涙)そう言っていただけてとてもとても嬉しいです。思うように書けずにいて読んでくださっている皆さんには申し訳ない気持ちですが…あたたかいコメントを糧に頑張ろうと思います!ありがとうございます! (2019年4月7日 0時) (レス) id: 0c7f8e1b68 (このIDを非表示/違反報告)
碧 - 初めまして。すごく楽しみに読ませて頂いています。夢見子さんの作品はいつも切なくて温かいものばかりで、大好きです!応援しています。 (2019年4月2日 18時) (レス) id: d6c70f3491 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 翠穂さん» 翠穂様、お返事大変遅れてしまってごめんなさい…!そしてあたたかいコメントありがとうございます(涙)すこしずつしか更新ができていませんが今後の展開も見守っていただけるとうれしいです! (2019年3月25日 12時) (レス) id: 742d92b89e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2019年1月30日 0時