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帰り道に、ママに電話をかけてみたけれどもちろん出なかった。
ママは今日はお昼からのデートの後、すぐ仕事だから。
我が母親ながらひどい話だと思う。ママはデートの時、わたしの電話には出ないしメールにも返事をしてくれない。ほとんどの場合。
ママにとって、一番大切なのは自分の恋で、二番目に大切なのが仕事で、そしてようやく三番目にわたしがくる。
――ひどいって思った?でもあなただって、ママに一番大切だなんて思われたら重荷じゃない?
そんなことをいたずらな少女みたいな顔でわたしに言ってきたことを思い出した。
別に、一番だったとしても重荷なんかじゃないけど。
でも一番を望むわけでもない。つまりは、どっちでもいい。一番だって三番だって、そんなに変わらない気がするから。
だけど、今日ばかりはタイミングが悪いと思う。わたしが鍵を忘れることなんてめったにないし、今までママは一日にデートと仕事のどちらをも入れることはめったになかった。もっともソノダさんと付き合い始める前までは。
このままではわたしはママが仕事から帰ってくるまで家に帰れないことになる。
それは、だから、明日の朝までってこと。
このままママに電話をかけ続けても、ただ携帯の充電のムダになるだけだし、諦めてブレザーのポケットにしまう。
焼けてるみたいな濃いオレンジの夕焼け空。風がすごくつめたくて、淡いピンクのマフラーに顔を埋める。
ママに大金は持ち歩かないように言われているから(と言ったって、わたしが持てる大金はせいぜい五千円までだけど)、お財布に入ってるお金は、二千二百八十円。さっき数えた。
夜ご飯くらいなら、どこかで食べられそうだけど、その後が問題。
夜になってしまうと、制服姿というのも、あんまりよくないし危ないし。
だけど、こんな急に今夜泊まらせてくれと頼むことができそうな友達もいない。
多分、一番手っ取り早い方法はアパートの管理人さんに電話をかけることなんだけど、管理人さんの電話番号って、アパートのどこかに書いてあったっけ?
途方に暮れそうになりながら、家路を辿る。
おばあちゃんがいればな、と思う。
三年前におばあちゃんが亡くなるまでは、いつでも家におばあちゃんがいてくれたし、それこそおばあちゃんはわたしを一番大切に思ってくれてた。
でも、もういないから。
そんなこと考えたってしょうがないよ。
わたしはわたしに言い聞かせる。
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蒼 夢見子(プロフ) - 幸さん» 幸様、心のこもったあたたかいお言葉ありがとうございます。こんなこと言っていただけるとすこし自惚れてしまいそうだなと思ってしまうほど本当にうれしいです。お礼を言いたいのはこちらのほうです…私は幸さんのコメントにあたたかい気持ちになりました^^ (2019年11月26日 19時) (レス) id: c01abe0da9 (このIDを非表示/違反報告)
幸 - 夢見子さんの作品は、何でこんなに引き込まれるんだろう…と、日々不思議に思っています。(笑) ものすごく好きな作者さんです。暖かい気持ちにさせてくれて、ありがとう。私も、夢見子さんのように、誰かを暖かい気持ちにさせられる人になりたいです。 (2019年11月21日 20時) (レス) id: 295a9fdbac (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 碧さん» 碧様、初めまして。お返事遅くなりすみません(涙)そう言っていただけてとてもとても嬉しいです。思うように書けずにいて読んでくださっている皆さんには申し訳ない気持ちですが…あたたかいコメントを糧に頑張ろうと思います!ありがとうございます! (2019年4月7日 0時) (レス) id: 0c7f8e1b68 (このIDを非表示/違反報告)
碧 - 初めまして。すごく楽しみに読ませて頂いています。夢見子さんの作品はいつも切なくて温かいものばかりで、大好きです!応援しています。 (2019年4月2日 18時) (レス) id: d6c70f3491 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 翠穂さん» 翠穂様、お返事大変遅れてしまってごめんなさい…!そしてあたたかいコメントありがとうございます(涙)すこしずつしか更新ができていませんが今後の展開も見守っていただけるとうれしいです! (2019年3月25日 12時) (レス) id: 742d92b89e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2019年1月30日 0時