( あんず色のよすが )

「雨、そして待っていること」 ページ32

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外は雨が降っていて、だから教室の中の白い蛍光灯がやけに眩しく思えた。


雨の日の学校って、なんか好き。

薄暗くて雨が降りしきる外を明るくてあたたかい教室から見るのも、授業中にけっして押し付けがましくない外の世界の雨音を聴くのも。

それでも外に出ようとした途端、雨はただ鬱陶しいだけのものになってしまうと思うとちょっとかなしい。




忠義さんから借りたDVDをこの数日で何回も観た。

何回も観て何回も主人公の生い立ちに胸が痛くなったし、最後ハッピーエンドで終わったことに心底ほっとした。


DVDはママに見つかると嘘をつかなければいけなくなるから、毎日リュックの中に入れて学校に持ってきてる。念のため。

最近ソノダさんとママの交際状況はとても順調らしくて(先週の金曜はママは休みだったけど普段より生き生きしてたし、だから帰ってきたわたしに機嫌良くフレンチトーストを作ってくれた)、多分忠義さんの影とか使われていなかったビデオデッキが使われていることとかに気づくどころじゃないと思うけど。



それがわたしにとっていいことなのか、悪いことなのかはわからない。ただわたしはちょっと、ほんのちょっとだけ、忠義さんがまた夕食を多めに作ってしまう日のことを待ってたりする。

連絡はあれ以来とっていない。でも、この間とは違って絶対また会えるし、あのアパートの部屋にも行くことになる気がしてた。




終礼が始まるまでの、この微妙な時間。


教室はざわざわとしていて、わたしは所在なくて雨の降る窓の外に目を向けようと思ったら、ちょうどわたしが窓の方に向けた視線の直線上にいた錦戸くんと目があった。バチッて、音がするくらいぴったり。



錦戸くんはめずらしく音楽を聴いてなくて、頬杖をついたまま横目でわたしを見てて、目が合った瞬間すぐそらされた。

思い過ごしかもしれないけど、なんか、まるでわたしが気づかないうちから見られてたみたいで気恥ずかしい。



だからわたしは元の場所に視線を戻して、リュックの中から手帳を取り出して用もなく今月と来月のとこを見たりした。

試験まで、あと一ヶ月くらいだ。なんて思いながら。




そしたら、


「…遅ない？」


って、隣からぼそって声がした。






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