( あんず色のよすが )

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「この間の映画…」


アジフライ――忠義さんが帰り道寄ったスーパーでわたしの分も買ってくれた――をお箸でほぐしながら白いご飯を頬張っていた忠義さんを見る。


「題名、なんて言うんですか？」



忠義さんはもぐもぐと口を動かしたままわたしを見て、ごくりと飲み込むと、


「愛と青春の旅だちのこと？」


ちいさく首を傾げて、醤油の入ったちいさな容器に手を伸ばした。



愛と青春の旅だち。心の中で復唱する。

なんかちょっと、いかにもひと時代前の映画って感じもするけど、あの映画の題名だと思うとすごく納得がいった。



「もう一回観たくて、それで今日ビデオショップ行ったんですけど、題名わからないとやっぱり見つからなくて。」


アジフライに視線を戻して、ほぐしたひと切れを口に入れ顔を上げる。

忠義さんは、そらそうやわ、って笑った。



「そんなん、メールで訊いてくれたらすぐ教えたのに。なんかあったら連絡しいて言うたやん。」


「なんかあったらって緊急時だと思ったんで…」


「緊急時て。まあ、それもそうやけど。」



初めて会った時からは想像もつかないような親しみやすそうな笑顔でそう言うから、なんだかひどく安心してしまって、

だから、いつも知らない間に他人との間に作ってしまう薄い壁のようなものが半分くらいにまで、薄くなった気がした。



それからわたしは、さっきよりずっと多くのことを忠義さんとしゃべった。


忠義さんは、中学生くらいから料理をするようになったことや、高校生の時に映画館によく行くようになって映画が好きになったことを話してくれた。




わたしは、うれしかった。


忠義さんが夕飯に誘ってくれたことも、忠義さんの言った『なんかあったら』が緊急時だけじゃなかったことも、忠義さんが自分の話をすこししてくれたことも。

誰か話しながら手作りのご飯を食べられたことも。





その夜、危ないからって、忠義さんは家の前まで送り届けてくれた。

寒いけど静かな夜だった。



「返すのはいつでもええから。」


そう言って渡してくれたのはビニール袋に入った『愛と青春の旅だち』のDVDでわたしは今日はなんて良い日なんだろうって心から思った。



わたしが不覚にも満面の笑みでお礼を言うと忠義さんは子どもを見る大人のような顔で笑って、


「また作りすぎたら連絡するから、飯食いにきな。」


この間みたいにわたしの頭におおきな手を乗せてから帰っていった。









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