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「…この間は、お世話になりました。」
まさか会ってすぐに、じゃあ、と立ち去るわけにもいかなくて、わたしは忠義さんと共に店を出た。
背後の自動ドアが閉まると共に、店内に流れていた有線が遮断される。
「ママ、心配してたやろ。友達んとこ泊まったって言うて、いろいろ訊かれへんかった?」
「全然、大丈夫でした。」
そうやって首を横に振ってから、脳裏にまたソノダさんからもらったドライフラワーの花束とデートの思い出に夢中だったママの姿が浮かんできて、わたしは慌てて気をそらそうと通りの景色に視線を移す。
ビデオショップと同じ通りにはドラッグストアとスーパーもあって、この間通ったときよりはひとの往来が多かった。
隣を歩いている忠義さんは今日は、フランネルのシャツとジーパンに丈の短いダウンジャケットを着ていて、ビデオショップの紺色の袋をぶらさげている。
「今日も仕事?ママは。」
忠義さんが横目でわたしを見た。わたしは、はい、と返事をして頷く。
「夕飯とか、いつもどうしてるん。」
「ママが買い置きしてある冷凍食品とかお惣菜とか…後は簡単なものなら自分でも作ります。」
「へえ。」
自分で作るって言ってもせいぜいお味噌汁や卵料理――卵焼き、オムレツ、スクランブルエッグ、目玉焼き、くらい――、あとは簡単な野菜炒めくらいだけど。
ささやかな沈黙が流れて、だんだんと突き当たりの大通りが近づく。
多分、あそこに出たらわたしは駅に向かうから右、忠義さんは左だ。
あの映画の題名、訊くなら今かもしれないなと思っていたら、
「なあ。豚汁好き?」
って、忠義さんは突拍子もなくわたしに尋ねてきた。
「はい…別に。」
わたしが頷くと同時に大通りに出た。忠義さんもわたしも、足を止める。
大通りには車がまばらに走っていた。
駅前に向かう白と緑の市営バスや、赤い軽自動車、駅から誰かを乗せて走っているらしいタクシー、ぴかぴか光った黒いミニバン。
「豚汁、今日の夕飯にしよう思うてさ、ちょっと作りすぎてもうてん。」
風に乗ってかすかに忠義さんから煙草の匂いがする。
「夕飯ひとりなんやったら食いに来る?」
忠義さんを見上げると、無表情だけどやさしい目でわたしを見下ろしていた。
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蒼 夢見子(プロフ) - 幸さん» 幸様、心のこもったあたたかいお言葉ありがとうございます。こんなこと言っていただけるとすこし自惚れてしまいそうだなと思ってしまうほど本当にうれしいです。お礼を言いたいのはこちらのほうです…私は幸さんのコメントにあたたかい気持ちになりました^^ (2019年11月26日 19時) (レス) id: c01abe0da9 (このIDを非表示/違反報告)
幸 - 夢見子さんの作品は、何でこんなに引き込まれるんだろう…と、日々不思議に思っています。(笑) ものすごく好きな作者さんです。暖かい気持ちにさせてくれて、ありがとう。私も、夢見子さんのように、誰かを暖かい気持ちにさせられる人になりたいです。 (2019年11月21日 20時) (レス) id: 295a9fdbac (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 碧さん» 碧様、初めまして。お返事遅くなりすみません(涙)そう言っていただけてとてもとても嬉しいです。思うように書けずにいて読んでくださっている皆さんには申し訳ない気持ちですが…あたたかいコメントを糧に頑張ろうと思います!ありがとうございます! (2019年4月7日 0時) (レス) id: 0c7f8e1b68 (このIDを非表示/違反報告)
碧 - 初めまして。すごく楽しみに読ませて頂いています。夢見子さんの作品はいつも切なくて温かいものばかりで、大好きです!応援しています。 (2019年4月2日 18時) (レス) id: d6c70f3491 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 翠穂さん» 翠穂様、お返事大変遅れてしまってごめんなさい…!そしてあたたかいコメントありがとうございます(涙)すこしずつしか更新ができていませんが今後の展開も見守っていただけるとうれしいです! (2019年3月25日 12時) (レス) id: 742d92b89e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2019年1月30日 0時