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日誌を担任に渡しに行って昇降口を出る頃、さっきより日が陰っていたけれど、でも随分日が長くなったなと思う。
わたしと錦戸くんは並んで靴箱から靴を取り出して並んで靴を履く。
なんとなく、やっぱり気まずい。
会話はないのに、錦戸くんはさっさと先に帰ろうとする様子もなく、同じテンポで昇降口まで来て靴を履いていた。
わたしはローファーを。錦戸くんは、もともとは黒だったんだろうけど汚れてるからか色が抜けているからなのか茶色っぽくなっているコンバースのオールスターを。
「…今日は部活、休み?」
話しかけていいのかもわからなかったけど、結果わたしたちは同時に靴を履き終わってしまったからそう訊いてみた。
錦戸くんは、サッカー部だった気がする。
体育祭の部活対抗リレーで、青いユニフォームを着て走っていた。確か。女の子たちの声援を浴びながら。
「おん。月曜は休み。」
錦戸くんはエナメルのショルダーバッグ――アンブロの。これもくたくたによれて、汚れてた。男子らしいなと思う。――を肩に掛けながら、頷いた。
そうなんだって返事をしてわたしたちはぎこちなく並んで歩き出す。
校舎の外に出るといつもようにテニス部のポニーテールの子たちが校舎の周りを走っていた。野球部の金属バッドにボールが当たった音が聞こえる。
なんか、部活に入ればよかった。
そう思うのは多分これで十数回目だ。
そのほうが友達も増えたし、放課後暇を持て余すこともなくもっと快活になれていただろう。でも部活って、どれもお金がかかるしこれといって入りたいと思えるものがなかったんだから、しょうがない。
「…鈴木さんて、ひとりっ子なん?」
錦戸くんが横目でわたしを見た。
「うん、そう。…錦戸くんは?」
「…四人兄弟。」
ぼそっと返ってきた答えは、かなり意外なものだったから思わず「へえ!」と高い声を出してしまった。
四人なんて、最近、珍しいと思う。それに、錦戸くんには兄弟がたくさんいるイメージはあんまりなかった。
「何番目?」
「三番目。兄ちゃんふたりと、妹。」
「へえー…。いいな。」
「全然ようないで。家ん中、うるさいだけやし。」
そう呟いた錦戸くんは、どこか照れ臭そうにしていて心の底から羨ましく思う。
それと同時に、錦戸くんと会話のラリーがこんなに続いたのは初めてだなって、嬉しくなった。
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蒼 夢見子(プロフ) - 幸さん» 幸様、心のこもったあたたかいお言葉ありがとうございます。こんなこと言っていただけるとすこし自惚れてしまいそうだなと思ってしまうほど本当にうれしいです。お礼を言いたいのはこちらのほうです…私は幸さんのコメントにあたたかい気持ちになりました^^ (2019年11月26日 19時) (レス) id: c01abe0da9 (このIDを非表示/違反報告)
幸 - 夢見子さんの作品は、何でこんなに引き込まれるんだろう…と、日々不思議に思っています。(笑) ものすごく好きな作者さんです。暖かい気持ちにさせてくれて、ありがとう。私も、夢見子さんのように、誰かを暖かい気持ちにさせられる人になりたいです。 (2019年11月21日 20時) (レス) id: 295a9fdbac (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 碧さん» 碧様、初めまして。お返事遅くなりすみません(涙)そう言っていただけてとてもとても嬉しいです。思うように書けずにいて読んでくださっている皆さんには申し訳ない気持ちですが…あたたかいコメントを糧に頑張ろうと思います!ありがとうございます! (2019年4月7日 0時) (レス) id: 0c7f8e1b68 (このIDを非表示/違反報告)
碧 - 初めまして。すごく楽しみに読ませて頂いています。夢見子さんの作品はいつも切なくて温かいものばかりで、大好きです!応援しています。 (2019年4月2日 18時) (レス) id: d6c70f3491 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 翠穂さん» 翠穂様、お返事大変遅れてしまってごめんなさい…!そしてあたたかいコメントありがとうございます(涙)すこしずつしか更新ができていませんが今後の展開も見守っていただけるとうれしいです! (2019年3月25日 12時) (レス) id: 742d92b89e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2019年1月30日 0時