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――行くところがない
――行くところがないんだ
わたしはまた、思い出していた。
あの夜、忠義さんと観た映画で主人公が泣きながら言っていたセリフを。
事なきを得た、と言ったらその通りで、本当によかったんだ。
結局わたしは路頭に迷うことなく、親切な忠義さんの家に一晩泊めてもらえて、安全に夜を越せたわけだし、
ママにだって泊まった場所を深く訊かれずに、だから何か面倒臭い言い訳を考えなくちゃならなかったり、ママがまた癇癪を起こしたりすることだって避けられた。
すべて、まるく収まった。
それなのにどうして。
――行くところがないんだ
――僕には、なにもない
あの映画――忠義さんの言っていた通り映像の色彩も音声もひと昔前のもので、しかもわたしにとって初めての字幕で観る映画だったのに、それはわたしにショックに近いおおきな感情を与えて終わった後不覚にも目頭があつくなっていた。――の、不幸な生い立ちの主人公の、セリフ。
もう一度、頭の中で再生される。
わたしが心の端っこでママに願っていた、わたしへの心配や気がかりがすこしだって、なかった。
わたしより、ソノダさんの方が、ソノダさんとのデートとソノダさんから貰った花束の方がママにとっては大切で。
そんなこと今更の話じゃないのに。
ママにとって、わたしは三番目で恋が一番目に大切だって、ずっと前から明確だったのに。
なぜか胸の中でつっかえてしまっていた。
まだまだ子どもなのかもしれないって、思う。
ちいさくため息をついて、シャーペンを持ちなおした。日誌を書くのが、まだ途中だった。
もともと印刷されているコマの中に授業名と教師の名前と内容を書いていく。自分のちまちまとした文字が並んで、空白を埋めた。
「日誌、終わった？」
急に背後から声をかけられてわたしはすこし驚いて、振り返ると錦戸くんが立ってた。
学ランの下にグレーのパーカーを着た、錦戸くん。
「あ、ごめん。あとちょっとで終わる。急ぐね。」
わたしがそう言うと、彼は慌てたようにおおきな目を丸くして、
「えあ、いや、焦らんでええよ。急かすつもりやなかってん。」
言い訳するみたいにぎこちなく早口で言った。
うちのクラスの日直は、隣同士ふたりずつ席順で回ってくるようになっているから、今日はわたしと錦戸くんだった。
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蒼 夢見子(プロフ) - 幸さん» 幸様、心のこもったあたたかいお言葉ありがとうございます。こんなこと言っていただけるとすこし自惚れてしまいそうだなと思ってしまうほど本当にうれしいです。お礼を言いたいのはこちらのほうです…私は幸さんのコメントにあたたかい気持ちになりました^^ (2019年11月26日 19時) (
レス) id: c01abe0da9 (このIDを非表示/違反報告)
幸 - 夢見子さんの作品は、何でこんなに引き込まれるんだろう…と、日々不思議に思っています。(笑) ものすごく好きな作者さんです。暖かい気持ちにさせてくれて、ありがとう。私も、夢見子さんのように、誰かを暖かい気持ちにさせられる人になりたいです。 (2019年11月21日 20時) (レス) id: 295a9fdbac (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 碧さん» 碧様、初めまして。お返事遅くなりすみません（涙）そう言っていただけてとてもとても嬉しいです。思うように書けずにいて読んでくださっている皆さんには申し訳ない気持ちですが…あたたかいコメントを糧に頑張ろうと思います！ありがとうございます！ (2019年4月7日 0時) (レス) id: 0c7f8e1b68 (このIDを非表示/違反報告)
碧 - 初めまして。すごく楽しみに読ませて頂いています。夢見子さんの作品はいつも切なくて温かいものばかりで、大好きです！応援しています。 (2019年4月2日 18時) (レス) id: d6c70f3491 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 翠穂さん» 翠穂様、お返事大変遅れてしまってごめんなさい…！そしてあたたかいコメントありがとうございます（涙）すこしずつしか更新ができていませんが今後の展開も見守っていただけるとうれしいです！ (2019年3月25日 12時) (レス) id: 742d92b89e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：蒼 夢見子
| 作成日時：2019年1月30日 0時
