「あたらしいふたつの」 ページ20
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週末は特に、いつもと変わらない週末だった。
土日はいつもママは仕事で、昼前に起きて夕方までわたしとテレビを観たり、スーパーに買い出しに行ったりしてその後また仕事に出て行く。
わたしは昨日は、スーパーやコンビニのお弁当に値段シールをひたすら貼る、派遣のアルバイト――高校生になってから飲食のアルバイトを始めようと思ったのに、ママに反対された。――に行って一日が終わってしまった。それだけの、週末。
月曜日は眠い。
今日は六限まであったけど、午後の授業は眠気と暖房のせいでずっとぼーっとするし、英語表現と日本史はどちらも先生が教科書をだらだらと読むだけで、退屈な授業なのだ。
だからその間中わたしはずっと、金曜日の夜ことを考えていた。わたしが鍵を忘れたことによって、起こった数々の出来事。
それはわたしにとって、かなり思い切ったちいさな冒険だったし、思いがけない展開の連続で、それにママに対する後ろめたさだって伴ってた。
それなのに、結局あの夜は眠りにつくまで(と言ってもなかなかあの夜は眠れなかったけど)、ママからはなんの連絡もなくて、
眠る前に「今日は友達の家に泊まる」って送った半分嘘の内容のメールにだって朝起きてもなんの返信もなかったのだ。
朝――確か、家についたのは8時半くらい。忠義さんは、忠義さんの家の最寄駅までわたしを送り届けてくれた。眠そうな目で。――、家に帰った時にママは珍しく早起きで、上機嫌で、わたしの朝帰りに触れもしなかった。
――見て、これ。素敵じゃない?
おかえり、ただいま、の挨拶もほどほどにママがわたしに見せてきた、ドライフラワーの花束。
うすむらさきのラベンダーとか黄色のミモザとか綺麗なモスグリーンのユーカリの葉っぱとかねこやなぎなんかが束ねられたもの。
――ソノダさんがくれたの。
ママは少女みたいに目をキラキラさせて、わたしにそう言った。
――綺麗だし、いい香り。よかったね。
わたしが微笑んでそう言うと、でしょう?ってうっとりした顔で花束を眺めてた。
――あのね、昨日…
――鍵、忘れていっちゃったんでしょ?
――うん…それで、
――よかったわね。お友達、泊めてくれて。
金曜日の話は、そこで完全に終わった。綺麗さっぱりと。
ママはソノダさんからもらった花束と昨日の思い出に夢中だった。
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蒼 夢見子(プロフ) - 幸さん» 幸様、心のこもったあたたかいお言葉ありがとうございます。こんなこと言っていただけるとすこし自惚れてしまいそうだなと思ってしまうほど本当にうれしいです。お礼を言いたいのはこちらのほうです…私は幸さんのコメントにあたたかい気持ちになりました^^ (2019年11月26日 19時) (レス) id: c01abe0da9 (このIDを非表示/違反報告)
幸 - 夢見子さんの作品は、何でこんなに引き込まれるんだろう…と、日々不思議に思っています。(笑) ものすごく好きな作者さんです。暖かい気持ちにさせてくれて、ありがとう。私も、夢見子さんのように、誰かを暖かい気持ちにさせられる人になりたいです。 (2019年11月21日 20時) (レス) id: 295a9fdbac (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 碧さん» 碧様、初めまして。お返事遅くなりすみません(涙)そう言っていただけてとてもとても嬉しいです。思うように書けずにいて読んでくださっている皆さんには申し訳ない気持ちですが…あたたかいコメントを糧に頑張ろうと思います!ありがとうございます! (2019年4月7日 0時) (レス) id: 0c7f8e1b68 (このIDを非表示/違反報告)
碧 - 初めまして。すごく楽しみに読ませて頂いています。夢見子さんの作品はいつも切なくて温かいものばかりで、大好きです!応援しています。 (2019年4月2日 18時) (レス) id: d6c70f3491 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 翠穂さん» 翠穂様、お返事大変遅れてしまってごめんなさい…!そしてあたたかいコメントありがとうございます(涙)すこしずつしか更新ができていませんが今後の展開も見守っていただけるとうれしいです! (2019年3月25日 12時) (レス) id: 742d92b89e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2019年1月30日 0時