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毎朝降りる駅は夜だとまるで違う場所のようだった。
今歩いているここだって、知ってる道のはずなのに、全然知らない街の知らない通りみたい。
わたしが眠る場所は今日は、自分の家じゃない。
ご飯を食べるのと同じくらい当たり前の習慣である、お風呂の前に和室にわたしとママの布団――ママが朝帰ってきたらすぐに眠れるように――を並べたり今日はしないのだ。
わたしはさっきから、黒いローファーの先ばっかり眺めて歩いている。
忠義さんが歩くたびに髪の毛がすこし揺れて、ちらちらと、明かりに反射して光るピアスが見えて、
寒がりなのかジャケットのポケットに両手を入れて、おおきな背中をちょっと丸めて歩いていた。
――それか、
自分がどうしたいのかもわからずに黙り込んでしまったわたしに、忠義さんが出した案――それはもしかして冗談のつもりだったのかもしれないけれど、わたしには冗談っぽくは聞こえなかった――は突飛なものだった。
――今日はうちに泊まる?
提案をしたのは忠義さんだけど、それに頷いたのはわたしで、だから今、忠義さんの家に向かっている。
わたしのもやもやとした感情にその提案はしっくりとくる気がした。
鍵を忘れてきたこともそう。忠義さんと会ったこともそう。
この数時間、わたしは不安になったり驚いたり緊張したり困ったり、忙しない感情と戦ってたというのに、ママはそんなのを知りもせず、わたしの連絡に気づきもせずに恋と仕事と充実した時間を送っていて。
わたしはママ以外頼れるひとがいない、心もとない世界にいることを改めて知らしめられて、それがなんだか悔しくて寂しい。
もしかしたら自分で思っていたよりずっと前から、寂しいと思っていて、ママの視線をこちらに向けたかったのかもしれない。
マフラーに顔を埋めて、無言で忠義さんのとなりを歩きながらそう思った。
大通りを車が風を切りながら走っている。
つめたい冬の空気は、ちょっと金属みたいな匂い。
「ここ、寄っていい?」
蛍光灯がまぶしいレンタルビデオショップの前で忠義さんは足を止めて、それからわたしを見たからわたしは「はい。」と頷く。
夜の街を制服姿で、それにほとんど知らない男のひとがとなりにいて、
非行少女になったみたいで、ちょっと怖かったし緊張していたし、だけど、ドキドキしていた。
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蒼 夢見子(プロフ) - 幸さん» 幸様、心のこもったあたたかいお言葉ありがとうございます。こんなこと言っていただけるとすこし自惚れてしまいそうだなと思ってしまうほど本当にうれしいです。お礼を言いたいのはこちらのほうです…私は幸さんのコメントにあたたかい気持ちになりました^^ (2019年11月26日 19時) (レス) id: c01abe0da9 (このIDを非表示/違反報告)
幸 - 夢見子さんの作品は、何でこんなに引き込まれるんだろう…と、日々不思議に思っています。(笑) ものすごく好きな作者さんです。暖かい気持ちにさせてくれて、ありがとう。私も、夢見子さんのように、誰かを暖かい気持ちにさせられる人になりたいです。 (2019年11月21日 20時) (レス) id: 295a9fdbac (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 碧さん» 碧様、初めまして。お返事遅くなりすみません(涙)そう言っていただけてとてもとても嬉しいです。思うように書けずにいて読んでくださっている皆さんには申し訳ない気持ちですが…あたたかいコメントを糧に頑張ろうと思います!ありがとうございます! (2019年4月7日 0時) (レス) id: 0c7f8e1b68 (このIDを非表示/違反報告)
碧 - 初めまして。すごく楽しみに読ませて頂いています。夢見子さんの作品はいつも切なくて温かいものばかりで、大好きです!応援しています。 (2019年4月2日 18時) (レス) id: d6c70f3491 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 翠穂さん» 翠穂様、お返事大変遅れてしまってごめんなさい…!そしてあたたかいコメントありがとうございます(涙)すこしずつしか更新ができていませんが今後の展開も見守っていただけるとうれしいです! (2019年3月25日 12時) (レス) id: 742d92b89e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2019年1月30日 0時