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わたしがオムライスを食べ終わる頃、忠義さんもお箸でお椀の中をすこしかき回しながらお味噌汁を飲み干していた。
膝の横に置いてあった携帯は、相変わらず、すこしも動いたり、音を鳴らしたりしない。もうすぐ7時半なのに。
多分ママのことだから、ぎりぎりまでソノダさんと一緒にいて、駆け込むみたいにバタバタと仕事に入っていったんだと思う。ソノダさんと一緒にいる時はすこしも必要になんかならない携帯は、バッグの底に眠ったまま。
そんなの、容易に想像できる。
いつも通りわたしは家にいて、冷凍しておいた白いご飯とママが買い置きをしておいたスーパーのお惣菜、それからお味噌汁を自分で作って食べていて、それで、夜更かしもせずに安らかに眠ることをママは当たり前に想像してるってことも。
――あなたがしっかりしていてくれるからママすごく、助かってるの。
すこし前に、ママに言われた。
それはママからのわたしへの信頼を表した言葉であり、ママが心からそう思ってるのはわかっていた。
だけど、今、わたしは今まで感じたことのない類の不安をほのかに感じている。
胸の中がむずむずしてそわそわして、曇っていた。
はっきりしなくてぼやけているのに、確実に気づかなかったほうがよかったような、感情――。
「職場、どこにあるかわかってるんやろ?」
忠義さんの声に、我にかえって、顔を上げた。
忠義さんもテーブルの上に置いた携帯のスクリーンをちらりと見てたから、そろそろ7時半になることをわかってそうわたしに尋ねたようだった。
「一応。」
わたしは頷く。だけどかすかに、眉間にしわを寄せてしまった。
「電話番号は?」
「…わかります。」
「じゃあ、そっち電話かけて、鍵取りいく?外までなら付いてったげるから。」
それが一番良い提案であることをわたしは知っていたし、さっきのさっきまでそう頼もうと思っていたし、それ以外の選択なんてないとも思っていた。
それなのに、わたしの口はまるで糊付けされてしまったみたいにちっとも開かなくて、ただ困ったような顔で黙り込んで俯くことしかできない。
不思議だった。
突然、自我が芽生えたみたいに思えた。
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蒼 夢見子(プロフ) - 幸さん» 幸様、心のこもったあたたかいお言葉ありがとうございます。こんなこと言っていただけるとすこし自惚れてしまいそうだなと思ってしまうほど本当にうれしいです。お礼を言いたいのはこちらのほうです…私は幸さんのコメントにあたたかい気持ちになりました^^ (2019年11月26日 19時) (レス) id: c01abe0da9 (このIDを非表示/違反報告)
幸 - 夢見子さんの作品は、何でこんなに引き込まれるんだろう…と、日々不思議に思っています。(笑) ものすごく好きな作者さんです。暖かい気持ちにさせてくれて、ありがとう。私も、夢見子さんのように、誰かを暖かい気持ちにさせられる人になりたいです。 (2019年11月21日 20時) (レス) id: 295a9fdbac (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 碧さん» 碧様、初めまして。お返事遅くなりすみません(涙)そう言っていただけてとてもとても嬉しいです。思うように書けずにいて読んでくださっている皆さんには申し訳ない気持ちですが…あたたかいコメントを糧に頑張ろうと思います!ありがとうございます! (2019年4月7日 0時) (レス) id: 0c7f8e1b68 (このIDを非表示/違反報告)
碧 - 初めまして。すごく楽しみに読ませて頂いています。夢見子さんの作品はいつも切なくて温かいものばかりで、大好きです!応援しています。 (2019年4月2日 18時) (レス) id: d6c70f3491 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 翠穂さん» 翠穂様、お返事大変遅れてしまってごめんなさい…!そしてあたたかいコメントありがとうございます(涙)すこしずつしか更新ができていませんが今後の展開も見守っていただけるとうれしいです! (2019年3月25日 12時) (レス) id: 742d92b89e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2019年1月30日 0時