「はじめて見る夜」 ページ15
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「俺もそうやってん。」
薄くてやわらかな卵からはみ出た、お皿の隅のご飯粒とグリーンピースを上手くスプーンに乗せるのに苦戦してたら、忠義さんがそう呟いた。
手を止めて顔を上げると忠義さんはグラスの水を静かに飲んで、それから口の端をおしぼりで拭う。
「俺も高校生ん時、母親が夜仕事してて家おらんくて…まあ、俺の場合は弟がおったから、ひとりやなかったけど。」
ファミレスの中は家族連れとか高校生の友達同士とかで賑やかになる時間帯で、もの静かなわたしたちは浮いているように思えた。
忠義さんはぽつぽつとわたしに話しかけてくれたけど、やっぱりこれくらいの年齢の、それに男の人と話すのは慣れなくて、わたしはさっきから曖昧な反応しかできない。
今も、スプーンを手に持ったまま、頷いてみるだけ。
そういうわたしの反応に、忠義さんは困ったり急かしたりする様子はなくて、ただ淡々とわたしに喋りかけて、それから結構もりもりとご飯を食べてる。
わたしはオムライス――このファミレスは時々ママと来るけど、わたしはいつもオムライスを食べる。ママはそういうわたしを「まだ子どもなのね」って笑う。――で、忠義さんはロースかつ定食のご飯大盛り。
「寂しいとか、心細いとか、思わへんの?」
きゅうりのお新香をお箸でつまんだ忠義さんはわたしを見ながら、口の中にお新香を入れた。
ぱりぱりと楽しい音がして、だけどわたしはまた曖昧に首を傾げる。
「…もう、ひとりなのには慣れてるんで、あんまり。…それに、」
「…それに?」
忠義さんはすこし眉毛を上げた。
「…寂しくても、どうすることもできないし。」
ぼそぼそと、お皿の上にすこし残ったオムライスを眺めながら答えた。
わたしだって、おばあちゃんが死んじゃった後の半年程、ひどく寂しかった。誰もいない家に帰って、ご飯をひとりで食べて、寝るまで誰とも喋らない生活は。
だけど、ちいさな子どもじゃないんだから、ママに夜遅くの仕事をしないでとか恋人を作らないで家にいてとかそんな駄々をこねたりしようとは思わない。
しかも、たとえわたしが駄々をこねたってママがわたしのために恋をやめて友達のお母さんたちみたいにスーパーのパートタイマーとか夕方までの託児所の先生になるとは思えない。
ママはそういうひとで、我が家はそういう家庭で。
それは変えようがないのだ。
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蒼 夢見子(プロフ) - 幸さん» 幸様、心のこもったあたたかいお言葉ありがとうございます。こんなこと言っていただけるとすこし自惚れてしまいそうだなと思ってしまうほど本当にうれしいです。お礼を言いたいのはこちらのほうです…私は幸さんのコメントにあたたかい気持ちになりました^^ (2019年11月26日 19時) (レス) id: c01abe0da9 (このIDを非表示/違反報告)
幸 - 夢見子さんの作品は、何でこんなに引き込まれるんだろう…と、日々不思議に思っています。(笑) ものすごく好きな作者さんです。暖かい気持ちにさせてくれて、ありがとう。私も、夢見子さんのように、誰かを暖かい気持ちにさせられる人になりたいです。 (2019年11月21日 20時) (レス) id: 295a9fdbac (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 碧さん» 碧様、初めまして。お返事遅くなりすみません(涙)そう言っていただけてとてもとても嬉しいです。思うように書けずにいて読んでくださっている皆さんには申し訳ない気持ちですが…あたたかいコメントを糧に頑張ろうと思います!ありがとうございます! (2019年4月7日 0時) (レス) id: 0c7f8e1b68 (このIDを非表示/違反報告)
碧 - 初めまして。すごく楽しみに読ませて頂いています。夢見子さんの作品はいつも切なくて温かいものばかりで、大好きです!応援しています。 (2019年4月2日 18時) (レス) id: d6c70f3491 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 翠穂さん» 翠穂様、お返事大変遅れてしまってごめんなさい…!そしてあたたかいコメントありがとうございます(涙)すこしずつしか更新ができていませんが今後の展開も見守っていただけるとうれしいです! (2019年3月25日 12時) (レス) id: 742d92b89e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2019年1月30日 0時