( あんず色のよすが )

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ふいに顔を上げると忠義さんと目が合った。



携帯をいじっていたはずの忠義さんはまるで、わたしが顔を上げる前からわたしを凝視してたみたいに、頬杖をついたままわたしをじっと見ている。観察するように。



気まずくって、何か言ったほうがいいのかなって頭の中で言葉を探してたら、忠義さんが先に口を開いた。



「それで」


一度目を伏せてまた、わたしを見る。


「ほんまは、何時まで？」


長い前髪から覗く、薄い色をした目。



何を訊かれているのかわからなくて、わたしの首を傾げる動作に被せるように「ママの仕事。」と忠義さんは言った。



「7時半までとちゃうんやろ。」



よくわからないけど、どういうわけか、わたしの嘘は見透かされてるらしかった。



わたしはなぜか叱られたような気分になって、また肩を縮こませ、俯く。


「…ほんとは…7時半から2時までです。」


小学校の時クラスにいた、いじめっ子が先生に叱られて「正直に言いなさい」って言われてた場面を思い出した。そんな気分だった。



忠義さんがため息みたいに鼻から空気を吐く音が聞こえた。

嘘をついたわたしにイラついてるかもしれないし、音信不通な上に夜中まで働くママを責めるかもしれない。

そう思って、ちょっと心がしおれそうだったけど、忠義さんはわたしを叱ることも、ママを悪く言うこともせず、



「腹、減らん？」



突然思い出したみたいに、訊いてきた。



「どうするかは、飯食いながら決めよ。俺今日昼ご飯食うてないからさ、むっちゃ腹減ってんねん。」



そう言うと、立ち上がって携帯をポケットに入れ、それから背もたれにかけていたジャケットに腕を通しはじめたから、

わたしは慌ててミルクティー――もう完全につめたくなってたけど、最後の方だからなのか、とびきり甘かった――を飲み干すと、立ち上がってリュックからマフラーを取り出しリュックを背負う。



わたしが空になっていた忠義さんのカップと自分のカップをゴミ箱に捨てて戻ると、「さんきゅ」って忠義さんは口角を上げた。


それから忠義さんに付いていくみたいに、制服姿のわたしは最後まであまり居馴れなかったカフェを出た。




外に出てすぐつめたい風が吹いて、前を歩く忠義さんの茶色くて長い髪が揺れた。




おかしな放課後になっちゃったなって思うけど、わたしは安心してた。さっきより全然。






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