「暗闇を泳ぐおおきな魚」 ページ1
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――ちゃんと探し出す。どこにいても。
ふと目を覚ますとわたしはまだ暗闇のなかにいた。
もう出発してから随分経ったような気もするし、そうでもないような気もする。
そっと携帯のボタンに触れるとやはりまだ、出発からそれほど時間は経っていなかった。
通路側の足元にある頼りない電球と、それからカーテンと窓の間のほんのすこしの隙間から漏れる外のおぼろげな光。
真っ暗闇ではないけれど、だけど、目を閉じていても開けていてもたいして変わりはない。
心なしか感じるゆるやかな疾走感。それからこの世界のもっと外側にあるような騒音。
古い思い出がそのまま映し出された夢を見ていた。覚えている限り。胸のあたりがすこしそわそわする。
なつかしい土地を何年ぶりかに踏みしめたから、こんな夢を見たのかもしれない。あのひとが夢に出てくるのはとても、久しぶりだった。
わたしは重たそうなカーテンの向こうにあるはずの、流れる景色を想像する。
均一に並ぶ淡いオレンジ色の背の高いランプ、遠くの方に見える夜景や、おおきな川にかかる橋梁。それからすばやく横を抜かしていくちいさな車たち。深い夜のにおい。
不思議だと思う。
わたしの他にもたくさんの知らないひとを乗せたおおきな箱。それは夜の闇の中を止まることなく走る。
暗闇をばくばくと食べながら、泳いでいるおおきな魚を頭の中に思い浮かべた。
目的地はわかっている。きっと、この箱は明日の朝には新宿南口に到着していて、その時には朝がきているのだ。
それなのに、このままどこにもずっと辿り着かないような気がしたし、辿り着かないでほしい、とも思う。そのほうがずっと、いい気がする。不思議と。
深く耳にねじ込んであるイヤフォンから流れてきた歌は、なつかしい歌だった。
明るいメロディなのに、とてもさびしい歌詞の歌。妙に透き通った高い声の男性ボーカルの歌声。
死んだママが、好きだった、歌。
わたしは細くて硬いアームレストに頬杖をついて、まるで窓の外が見えているみたいにカーテンのほうをおぼろげな目で見ていた。
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蒼 夢見子(プロフ) - 幸さん» 幸様、心のこもったあたたかいお言葉ありがとうございます。こんなこと言っていただけるとすこし自惚れてしまいそうだなと思ってしまうほど本当にうれしいです。お礼を言いたいのはこちらのほうです…私は幸さんのコメントにあたたかい気持ちになりました^^ (2019年11月26日 19時) (レス) id: c01abe0da9 (このIDを非表示/違反報告)
幸 - 夢見子さんの作品は、何でこんなに引き込まれるんだろう…と、日々不思議に思っています。(笑) ものすごく好きな作者さんです。暖かい気持ちにさせてくれて、ありがとう。私も、夢見子さんのように、誰かを暖かい気持ちにさせられる人になりたいです。 (2019年11月21日 20時) (レス) id: 295a9fdbac (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 碧さん» 碧様、初めまして。お返事遅くなりすみません(涙)そう言っていただけてとてもとても嬉しいです。思うように書けずにいて読んでくださっている皆さんには申し訳ない気持ちですが…あたたかいコメントを糧に頑張ろうと思います!ありがとうございます! (2019年4月7日 0時) (レス) id: 0c7f8e1b68 (このIDを非表示/違反報告)
碧 - 初めまして。すごく楽しみに読ませて頂いています。夢見子さんの作品はいつも切なくて温かいものばかりで、大好きです!応援しています。 (2019年4月2日 18時) (レス) id: d6c70f3491 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 翠穂さん» 翠穂様、お返事大変遅れてしまってごめんなさい…!そしてあたたかいコメントありがとうございます(涙)すこしずつしか更新ができていませんが今後の展開も見守っていただけるとうれしいです! (2019年3月25日 12時) (レス) id: 742d92b89e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2019年1月30日 0時